アル、出産おめでとう。
クリス、これからも二人のことをよろしくね。
私はこれから、自分の歌と向き合うための旅に出ます。
ずっと迷っていたけれど、それが今の私の進みたい道だと思ったから。
それじゃあ、行ってきます。
二人とも、どうか元気で。
トルティニタ
レターセットの便箋を取り出し、二人へのメッセージを残す。
伝える言葉は、最低限でいい。
それ以上の言葉は、未練になってしまうから。
クローゼットに入れておいたキャリーバッグを取り出し、コートを着込む。
たとえ十分ではなくとも、準備はもうできていた。
姉さんとクリスが知ったら、きっと悲しむだろう。
でも、その悲しみを癒してくれる存在は、
もう、二人のそばにいる。
玄関の扉をそっと閉じると、小さな音が胸に響いた。
クリスや母さんたちが帰ってこないうちに、私は生まれ育った家を後にして駅へと向かった。
最後まで 言えないことがあった。
でも、すべてを告げることが、いつも良いとは限らない
私の言えなかったことも
姉さんが言えなかったことも
――いつかすべて、わかる時が来る
そんな気がした……。だから、
汽車の中で遠ざかっていく故郷を見ながら、私は小さく呟いた。
「さよなら」
青い空は、まるで私の旅立ちを祝福してくれているようだった。
心の中で、もう一度、二人の顔を思い浮かべた。
『二人とも、いつでも微笑みを絶やさないでいてね』