リセ・ファル・トルタシナリオ紹介


◆目次◆
◆1.共通シナリオ~共通BadEND1~
◆2.リセルシアシナリオ
◆3.ファルシータシナリオ
◆4.トルティニタ(表)シナリオ


◆共通シナリオ~共通BadEND1~

共通BadEND1は、本編において各シナリオルートに入る条件を満たさずに規定の日数を超えてしまうと迎えてしまうエンディングです。

卒業演奏のパートナーを探すクリスは、数人のパートナー候補を見つけることはできたものの、結局、パートナーを誰かに決めることができずに、コーデル先生の決めた最終決定日を迎えてしまいます。
呆れながらもコーデルは予め声を掛けていた候補を練習室に迎え入れます。

「しょうがないから来てあげたよ」
そうして、幼馴染であるトルタと卒業には問題ない程度の演奏を終えます。

パートナーを自発的に選ぶ事ができなかったことを後悔するも「僕にはアリエッタがいる」と、心の中で彼女の事を思い浮かべながら【今のまま、何も変わらない日常】を求めたクリス。

発表後。演奏を聞きに、そしてクリスを迎えにやって来たアルと共に、二人は故郷の町への岐路に着きます。

『故郷にいる、本当の私の姿を見て欲しいから…』

この共通BadEND1は、単なるゲームーオーバー的な役割を持つエンディングではありません。
一つの物語の終わりを、そしてこのシンフォニックレインという楽曲を構成する要素の一つであると言えるでしょう。

このENDのクリスは誰も選ぶことができませんでした。求めていたと思っていたアルでさえも。
クリスの求めたのは、遠い記憶の中のアル。トルタが演じ、トルタの手によって創られた、クリスの思い描く『アル』の幻影。

フォーニENDに最も似ているけれど、実は遠いところにある結末。
故郷の町へ戻り、本当のアルの姿を知った時、彼は何を思うのでしょうか。

たとえどのような思いに苛まれたとしても、たとえ選んだのが幻影のアルであったとしても。
たとえ、クリスの隣に誰もいなくなったとしても。
トルタの最後の問いの答えを覆す事は、一生許されないのだと思います。

○トルティニタ ―私のこと、愛してる?

このエンドにおいて、アルに扮したトルタは最後にクリスにそう問いかけます。
何も知らず、思い出せぬままに、変わらない風景を望んだクリス。それは既に、決して得られる物ではないと知りながら。

クリスの事を心から心配しているけれど、アルはもうクリスの傍にいられないけれど。
それでもトルティニタもまた、クリスの傍にはいられない。彼が選んだのは、そういう道だった。

このENDにトルタにとっての救いはあったのでしょうか?
…少なくとも、アルというもう1人の幻影を背負う重みは無くなったのでしょう。クリスに対する想いの重みについても、同じだと思います。

二つの重みを無くしたトルタは、それでもやはり自分を責めるでしょうが、それでもまだ、青空を望む未来はありえるのではないかと思います。

○アリエッタ ―アルの言う事をよく聞くのよ? それからトルタの言う事も、よく聞くのよ

このENDにおけるフォーニ…アリエッタの最期の言葉。
結局は、クリスを誰かに託す事はできなかったけれど、クリスは自分を思い出すことはなかったけれど。
それでも、そんなクリスの全てを許し、その背中を見送ります。

この言葉に出てくる二つの名前は、どちらも『トルタ』を指す言葉。
トルタの話を真剣に聞いて、その上でクリスの道を歩んで欲しいと、そう願って消えたフォーニ。
その瞬間の彼女の心に「後悔」だけは無かったはずだと思います。

このENDとフォーニENDとの違いは後述しますが、

『何も選べなかった』 それもまた、一つの選択。

この共通ENDもまた、この先に挙げるいくつかのシナリオと同じく。1つの結末を描いた、重要な物語の欠片であると思います。


◆リセルシア シナリオ

リセルシアシナリオはS=Rを構成する大切な意味を持つ、5人の少女の内の1人
リセ、リセルシア=チェザリーニという少女の物語です。

今は使われていない旧校舎。その片隅で、まるで何かから逃れるように、一人、歌を歌っていた少女。
その素朴で透き通る音色と、どこか、かつてのアルを思い出させるような小さな姿に、クリスは惹かれていきます。

人との係わり合いを避け、いつも泣きながら謝る事しかできなかったリセもまた、クリスと出会い、少しずつ。でも確実に変わっていきます。

学院中に流れるリセの悪い噂。そして、傲慢で厳格な義理の父親「グラーヴェ」の存在。

「私…歌っても良いんでしょうか」

多くの抑圧の中で、リセの望んだものは
ただ「歌うこと」
『大好きな歌を、歌う事ができる場所』
そんな彼女の為に、彼女の心の拠り所になりたいと願ったクリスの思いは、いつしか、彼の中のアリエッタへの想いよりも大きくなっていきました。

そして、クリスは一つの選択をします。

【リセの傍にいて、リセのためにフォルテールを奏でよう】

そう心に決めたクリスは、同じくクリスの傍にいることを心に決めたリセと共に、グラーヴェの試練、卒業演奏に望みます。

…その後に起きた出来事は、とても悲しいものでした。

最後に故郷の町戻ってきたクリスは、それでもリセのためにフォルテールを奏でます。
声を無くし記憶を壊された、リセの傍らで。

――どんな今日だとしても 新しい日々が塗り替えてゆく

かすれた声だけれども、ゆっくりと歌いだすリセ。
心の中の雨はまだ止まない。けれど二人の見上げる空は、
明日は、確かに希望に溢れていました。

リセの物語において彼女に影響を与える人物が、クリスの他に2人います。
1人はグラーヴェ・チェザリーニ。リセの実の父親にしてリセの悲しみの元凶。
リセから歌を奪い、躾と称して数々の体罰を行った彼の行為は決して許されるものではないと思います。

…しかし、それでもこの「グラーヴェ」という人物を「悪人」とだけ決め付けてしまっては、見えてこないものもあります。
グラーヴェという人物が何を思い。何故そのような行動にいたったのか。
本編シナリオだけでその答えに至ることは、不可能に近いでしょう。

しかし愛蔵版以降に発表された短編集からであれば、グラーヴェの境遇、そしてその内面について、いくらかを知る事ができると思います。

そして、リセにある影響を与え、その未来さえにも影響を与えうるもう1人。
ファルシータ・フォーセット

彼女とリセの関係はコインと裏と表のようなもの。
まるで違うけれど、寄り添い合うこともできる。

『いかさまコイン』という名の短編シナリオから、
彼女とリセの関係のいくつかを汲み取る事ができますが…

とりあえずここでは、リセシナリオの延長線上で読み取れる限りの事のみを抜き出していきます。

このリセシナリオにおいて、明確に説明がなされていない事柄は大きく3つ。
・リセを誹謗中傷する噂とは、一体なんだったのか。
・トルタがリセを呼び止め、クリスに聞かれない場所で話したことはなんだったのか。
・リセは最後に、歌を、記憶を取り戻すことが出来たのか

一つ目の答えは、この先のシナリオをクリアすることである程度の推測が出来ます。
もっとも、さらに正答に近い答えが短編集にありますが。

『リセの悪い噂を流したのはファルであり、その理由は大貴族の娘である彼女を自分に依存させ、チェザリーニ家の力を、また彼女の音色を手に入れようとしたため』

二つ目の答えはalfineENDをクリアすることで推測することができます。
正答に近い答えもまた、短編シナリオの一つ「こんな空の下で」で得ることができます。

『トルタがリセに話したことは、クリスが雨の幻を見ているということ。何故そうなってしまったのかの理由。アルの事故のことも含め、トルタが今までに背負ってきた、クリスへの思いそのもの』

三つ目の答えは、本編中では語られません。この答えは上記2つの解とは少し違います。
得られた結末を踏まえ、その未来を思うことこそが三つ目の真の答えだと思うからです。

ただ、こちらも短編シナリオ「こんな空の下で」を読むことによって『起こり得るであろう未来の一つ』を見ることはできます。

ここまで紹介すればもはや言うことも無いですが、このリセという登場人物は、本編でも本編以外でも多くの可能性を提示されている希少なキャラクターです。

クリスという愛する者を見つけた彼女が得たものは、確かな幸せでありました。
けれど、彼女は或いはクリスとの出会いとは別の形であっても『幸せ』を得ることができるのではないか。
私はそうとも思います。

○トルティニタ ――これって、贖罪のつもりなの?

リセの看病を続けるクリスの元を訪れた彼女は、最後にクリスにそう呟きます。
al fineシナリオをクリアした後であれば、この言葉にどれほどの意味が籠められているのかを知ることができます。

ここでいう罪とはアリエッタに対しての罪を指すのでしょう。
アルに対して負ってしまった罪を、リセに尽くす事で償っているかのように、少なくともトルタには、見えてしまったという事です。

前後の反応を見る限り、少なくともこの時点においてクリスはアルが亡くなっている事を知らないものと思われます。
もしかしたら、その事実は一生彼に伝えられることは無いのかもしれません。

またたとえ知ったとしても、この先もクリスはただリセの隣に在り続けるでしょう。
それを償いというのならば、アルとリセを天秤に掛けてリセを選んだ時。
それによって、アルを裏切ってしまった時に決まったこと。

そのようなものも含め、アルは二人の全てを許し、リセに全てを託しました。
ただし、それを知る術はトルタにも、リセにもありません。

とはいえトルタもまた、リセに全てを託したことは事実です。
クリスの雨の原因も、その想いの全てを彼女はリセに託しました。

その思いをリセが真剣に受け取ったからこそ「こんな空の下で」で描かれる様な未来を、クリスとリセは手に入れることができたのだと思います。

全てを託したトルタに必要なのは…時間でしょうか。

幸せな明日を願い、それを手に入れようとするクリスやリセと同じ様に、多くを失った彼女もまた、やがて未来へ歩き出すことでしょう。

けれどその為には、やはりそれなりの時間が必要なのではないか。彼女の最後の言葉を聞き、私はそのように感じました。

○アリエッタ ――二人とも、仲良くね。ばいばい

このシナリオにおいてフォーニは、アリエッタは
…きっと幾つかの満足を得ることができたのだと思います。

リセをクリスに似ていると言って微笑んだアル。

リセは、クリスを託すことができる人でありました。
アルは二人を理解し、リセに対してもまた好意を持っていました。
クリスの決断を。願いを聞き。全てを許し二人を応援しました。

また、残り少ない時をクリスとのアンサンブルで過ごすことができました。

全てが救われたわけではない。救われていないものも、整理できない心も、願いも。彼女の中にはあったでしょう。
それを読み取る事は後記にするとしても、最後に二人に別れを告げたアルの心には、恐らく満足と呼べるものがあったのではないかと思います。

リセルシアシナリオGOODEND。

過酷な現実の中にあっても、希望を信じ、光溢れる未来を信じるクリスとリセ。
もし、このシナリオに相応しい言葉を一つ選ぶならば
「明日」だと思います。


◆ファルシータ シナリオ

ファルシータ・フォーセット。
彼女は、このシンフォニック=レインという大きな物語の中でも、ひときわ異彩を放つ登場人物であると感じます。

―falsita. イタリア語で『嘘』という名を冠する彼女のシナリオ。

誰に対しても丁寧に語りかける優等生。淑やかで努力家で、人からの頼みごとも快く引き受ける彼女。
多くの人たちから信頼され、時に尊敬さえされていたファルシータ。
彼女はパートナー選びに悩んでいたクリスの前に現れ、その頭上にそっと傘を差します。

「パートナー候補として、歌を合わせて欲しい」

そんなファルの希望に答え、クリスは幾度となく彼女の待つ練習室へ足を運びます。そしてその度にクリスはファルの様々な表情を知っていきます。

何に対しても努力を惜しまず、特に「歌」に対しては一切妥協せずに真剣に向き合い
常に向上心を持ち続ける彼女に、クリスは尊敬と信愛の念を覚えていきます。

彼女の境遇を知り。その上で自らの夢を語ったファル。彼女の力になりたいと願ったクリスは、いつしかその思いが明確な「好意」に変わっている事を自覚します。

アルからの別れの手紙、アルとトルタへの罪悪感。様々な思いを越えて、
一度は出したクリスの結論は「ファルのことが好きだ」という思い。

しかし、そんなクリスを前にして、ファルはこう言います。
「本当に私を見て欲しい」「その上で、私を好きだと言って欲しい」と。

ファルの言葉を聴き、ファルの本当の姿を知ったクリスは、そんな彼女に一度は出したはずの結論を迷ってしまいます。

揺れ動く思いのままに、その感情の全てを篭め奏でたフォルテール。
卒業演奏は、誰もが認める素晴らしい結果となって、二人の未来の可能性を示しました。

「私に、ついてきて欲しい」

演奏後、彼女はクリスに最後の選択を促す言葉をかけます。
利用し、利用されるだけの関係。それを真実だと語ったファルの姿は、酷く醜く、そして美しくも見えました。

クリスは、一つの決断をします。

【彼女が僕を必要としてくれる限り】
【彼女が僕を愛してくれる限り】
【だから僕は、幸せになりたいと語った、ファルの傍にいる】

クリスの故郷へと向かう列車の中で、ファルは自らの翼の片翼をクリスに託します。
「この先何があっても、私がずっと傍にいてあげるから」

二つの翼は、高い高い空を目指して、夢を目指して。羽ばたきはじめました。

さて、このシナリオと他のシナリオを見比べた場合、一番初めに気づくのはその選択肢の多さです。

この結末に辿りつく為に、中盤から終盤に掛けてクリスは幾度も選択を迫られます。
その選択とは要するに「ファルを受け入れられるか否か」
ファルシータの生き方を認め、自らも同じ道を歩む事を選ぶかどうかで、結末は大きく変わってきます。

キャラクター考察でも触れたいと思いますが、ファルはこのS=Rの登場人物の中で、最も「強固な意思」を持ち、それに基づいてあらゆる行動を起こしています。

愛する人と自分の夢。それを天秤に掛けて『夢』を選ぶ。
リセであれトルタやアルであれ、クリスであってもそれを選択することはないでしょう。
そういう意味でも、このファルは他の登場人物と一線を画す存在であるともいえます。
それがまた、彼女の魅力でもあるのでしょう。

唯一つ、勘違いしてしまいそうな事かもしれませんが、彼女は決してクリスを愛していなかったわけではありません。

フォルテールの音色はその奏者の心を表します。
その音色に恋をしたファルは、すなわちクリスの心にも恋をしたと言えるでしょう。

終盤において、彼女がクリスに自分の本当の姿を見せた理由。
『クリスのフォルテールの音色は、彼の悲しみに比例して美しさを増す』
という理由からでも、説明できない事はないとは思います。

ですが、彼女の夢を叶える最も重要な岐路である演奏会の直前に取る行動としては、それは余りにもリスクが大きい様に思えます。何より夢を優先する彼女らしくもありません。

恐らく彼女にとっても、あの行動は計算の範囲を越えた『賭け』のようなものであったと思います。
そのリスクを冒してまで『クリス』という存在を得る代償としては足り得た。
つまり、彼女にとってクリスはそれほどまでの意味を持つ存在であった。

『利用する』という言葉は、『必要とする』とも言い直せます。
一生必要とする存在を手に入れた彼女は、クリスに最後にこう言います。
「ずっと、傍にいるから」

このシナリオにおいて、明記されていない疑問点をあげるならこの2点でしょうか。
・ファルは、クリスの事についてどこまでを把握していたのか
・ファルの歌に足りないものとは、何であったのか

一つ目の答えについては、alfineシナリオ及び短編集から推測する事ができます。
最低でもクリスと初めて会う前までに、アーシノが知っている事については把握しています。
すなわち「クリスが雨の幻を見ている」こと。
では、その雨の理由についてはどうでしょう。

alfineシナリオにおいて、ファルはトルタに
「クリスが自分を選んだならば、全てを教えてもらう」と言っています。

12月2日の時点では、ファルは事故についての真相を知りません。
では、彼女はいったいいつ真相を知ったのでしょう?
可能性としてはクリスがファルをパートナーと決めた時以降。トルタが最後の手紙を書いた時以降、が考えられます。

或いは、その真相を知る事によって、彼女はあの『賭け』を実行した。という推測もできます。

そして、最後に列車の中でクリスをアリエッタに会わせようとした行動の理由。
alfineシナリオ後ならば、それがどういう意味を持っていたのかを知る事ができますね。

ファルはあの時点で「アリエッタが昏睡状態である」ことを知っています。
実際は、フォーニとのお別れの後のことですから
アルは昏睡ではなく死亡していると考えた方がよいですが…。

その理由を好意的に考えるならば、
・クリスに、幼馴染である恋人のアルと最後のお別れをさせてあげたかった。
その逆の意味で考えるならば、
・クリスに現実を突きつけ、それによって生まれる『悲しみ』の音色を手に入れようとした。

前者の方は少々考えにくいかもしれませんが。
・自分を選んでくれたクリスの、最後の迷いを断ち切らせる為。
という理由が含まれていると考えるならば、
あながち後者の理由だけでその行動を取ったと断言する事はできません。

二つ目の答え『ファルの音に足りないもの』とは何であったのか。
これについては、劇中で明確な答えは出されていません。

・クリスとフォーニにあり、ファルにないもの。
・自らの孤児院から帰って来た後のファルにはそれを感じられた。

後者の理由から、その「足りないもの」は、クリスについての感情、すなわち「恋」や「愛」といったものではないと推測します。

では前者の理由からはどうでしょう

「音楽を心から愛し楽しむこと」?
ファルは「音楽を歌っている間は在りのままの自分でいられる」と語っています。
また「歌は手段ではなく目的」といっている事も含めると、これが足りていないとは考え難いです。

「悲しみの音色」?
ファルの心の葛藤や、背負ってきた過去を見るに、これも考え難いです。

「優しさ・人を思いやる心」?
孤児院から戻り、しばらく経ったファルの音色が元に戻っている事から。
夢に向かって真っ直ぐ進む迷いの無い状態のファルに足りないもの…と考えるのが妥当でしょうか。後に出た短編集でのファルの様子を見た限りでも、これが最も正解に近いのではないかと考えます。

明確な答えがない以上、推測でしかありませんが。
やはりファルにはそのような心、純粋に人を思い、尊敬し、助け合うといった感情が「足りていない」にではないかと思います。
ただそれでも『全くない』わけではないのだと、付け加えておきます。

さて、このファルという人物もまた本編以外で幾つかの未来が描かれているキャラクターです。

クリスが彼女を選ばなかった場合、ファルは高確率でリセを自らの片翼に選びます。
そしてそのリセの存在。その技術すら、ファルが空を羽ばたくに足る力を持っているということも描かれています。

クリスがファルを選ばなかった場合、
ファルとリセはとても良い関係を築けていた可能性が高いのです。

リセにとってもクリスにとっても、ファルにとっても
そのような別の未来を選んだ場合に訪れる幸福も存在すると言えるでしょう。

共通して言える事は、ファルにとってどのような未来があったとしても、一つの夢を叶える為に、最大限、力強く羽ばたいていくであろうという事でしょうか。

○トルティニタ ――それでもいつか、ファルシータさんのことは、クリスにも分かる時がくると思うから

このファルシータシナリオは、もしかしたらトルタにとって、最も過酷な未来を強いるシナリオなのかもしれません。

トルティニタは、ファルがクリスの音色を手に入れる為に彼に近づいていたことを知っていました。
「出来れば彼女の顔を二度と見たくない」
それが単純な嫉妬心だけから来たものかは分かりませんが、少なくとも初対面の時点で好意は持っていなかったと思われます。

また、クリスと違いファルの内面の迷いや弱さ…人間味を知る機会もなかったわけで。
クリスがファルを求める理由を、ただ純粋に受け止めることは出来なかったのでしょう。
リセに託す時ですら、あれほどの葛藤があったくらいですから。

それでも、最後にはクリスの出した結論を受け止め、
アリエッタとしての最後の手紙に上の一文を添えます。

分かる時が来る…の”分かる”とは何を指すのでしょうか?
トルタがファルの「裏の顔」を深く知らない以上、この解釈は難しいです。
この手紙を書いている時点で、トルタがファルの事をどれだけ把握しているか分かりませんが、
ファルの目的をある程度把握しているのなら「クリスを利用しようと考える様な人間である」ということが分かる時がくる、と読み取るのが妥当でしょうか?

そこまで深く知りえてなかったのであれば、クリスが劇中で言ったとおりの意味。
「クリスがファルを本当に好きになること」が分かる時が来る…という解釈ですね。

クリスの決断後、事故の事も全てファルに話したであろうトルタ。
良きにせよ悪きにせよ、この先クリスにあるものがたとえ幸福と呼べるものではなかったとしても。
その選択を許し、全てをファルに託したトルタ。

彼女は彼女自身で、全てを割り切ることができたのでしょうか?

故郷のアリエッタに会いに来たクリスを。
全てを知って、また『雨の降る町』に戻って行ったクリスを。

最後のシーン。まるで夢を見るかのような表情で、
一心にフォルテールを奏でるクリスを、もし彼女が知ったとしたら…

トルタは『全てを許す』ことができるでしょうか。

その答えは誰にも分かりません。

○アリエッタ 『――これで安心して』

このシナリオにおいて、彼女の最後の言葉は置手紙にあった「さようなら」の文字です。
ですが彼女の思いを知る最も重要な言葉は、まどろみの中で聞いた上の台詞でしょう。
この台詞は、最後のフォーニENDに通じる、重要な欠片の一つになるのですが…
そのことについてはとりあえず置いておきましょう。

ファルシータという人物の人となりについて、残念ながら彼女も深く知ることはできませんでした。
漠然と「何か、彼女には足りないものがある」と感じることはできましたが。

兎にも角にも、アリエッタには選択肢がとても少ないのです。
「全てを許す」という立ち位置にある彼女にとって、それはもはや皆無ともいえます。
ただ一つの未来を除いては…

「でも、良かったね。一緒にいてくれる人が見つかって」
それが、ファルシータシナリオでのフォーニの答え。

クリスの傍に一緒にいてくれる人がいる。
クリスもまたその人の事を愛している。

アリエッタが、誰かがクリスを支えてくれる未来を得られたと感じるならば。
少なくとも何も選ばなかった未来よりは、自身が望む結末を迎えられたのではないかと思います。

最後の望み。クリスの肩に登り、その頬にキスをしたフォーニ。
クリスの選ぶその先の未来がどんな姿であれ、それは間違いなく「祝福」であったのではないでしょうか。

ファルシータシナリオGOODEND。
最後に流れる『メロディー』の歌詞は、夢と恋を悩み、それでも夢を選ぶ。といった内容のものです。

ファルシータにとっては『夢』を叶える事こそが何より最大の願いであり。
クリスもまた、そんな彼女の夢を叶える為に彼女の片翼となった。

もし、このシナリオに相応しい言葉を一つ選ぶならば
やはり「夢」なのではないでしょうか。


◆トルティニタ シナリオ

トルティニタは、シンフォニックレインという物語の中核をなす登場人物です。この物語自体を一つの楽曲と見なすなら、このトルティニタシナリオと、al fineシナリオの表裏を持って、主旋律とも言えるものでしょう。

トルティニタ――アリエッタの双子の妹であり、クリスの幼馴染。
彼女には歌の才能があり、クリスと同じピオーヴァ学院に通っていました。

クリスはトルタにも好意を持っていましたが、恋人であるアルの手前、彼女とは着かず離れずの微妙な距離を保ち続けていました。

最初は卒業演奏のパートナーに選ぶことも躊躇っていたクリスですが、幾度の練習を重ねるうち、やはりクリスはトルタをパートナーに選びました。
少しずつ近づいていく距離。昔から気づいていた、トルタの自分への想い。

練習の無理が祟り、風邪をひいてしまったトルタ。
そして告げられた、トルティニタのクリスへの告白。
クリスは、自分にとってアルとトルタは同等の重さを持つ存在であるという事を自覚します。

年明けに突然訪れたアル。そして、その後のアルからの手紙。自ら犯してしまった行為に、クリスは迷い戸惑うものの、既にその時点では、トルタへの想いはアルへの想いよりも大きくなっていました。

最後に、自分の名前を呼んで欲しいと言って駅に消えたアリエッタ。
けれどクリスはその名前をもう呼ぶことは出来ませんでした。

彼は走ります。【一番好きだ】と心に決めたトルティニタの元へ…。

このシナリオは、後に紹介するal fineシナリオと表裏一体の関係にあります。クリスの視点から見たal fineシナリオとも言えるでしょう。

実はこのトルタルート。al fineENDを迎えた後にプレイすると、最後に選択肢が現れます。
トルタを信じて待つか、トルタを迎えに行くか。
ここで『トルタを信じて待つ』を選択すると、al fineENDの結末に繋げる事ができるのです。

トルティニタシナリオには、多くの謎や疑問点が存在します。
…しかし、それをここで説明する必要はないでしょう。
なぜならその殆どの答えは、al fineシナリオの中に存在するからです。

このシナリオのエンディングを初めて迎えた時には、きっと多くの人が疑問を持ち、そして、後に騙されたと感じたと思います。
初回でしか味わえない感傷。それがゲームの醍醐味、或いは全ての物語の醍醐味なのかもしれません。

クリスの視点で、一度思いっきり騙されていればこそ、この後のalfineシナリオが、更に強く深く心に刻み込まれていくはずです。

トルティニタの天秤。クリスの天秤。
そのどちらも片方にあるのは「アリエッタ」という存在。

他のシナリオの場合トルタはその天秤のもう片方にリセ、或いはファルを乗せ
クリスの中の想いがアルへのそれを上回ったと確信した時に、取るべき行動を起こしています。

ですがこのシナリオでは、そのもう片皿に座るのはトルティニタ自身。
トルタは慎重に何度も何度も、その天秤を使い両者の重みを量ります。
何度でも…クリス自身の天秤がトルタへと傾いた後も。

アリエッタとしての手紙、アリエッタに扮してクリスに会いに来たトルタ。
それは明確なトルタの意思によって行われた行為。
そして、そのアリエッタの幻想の中に見え隠れする本当のトルタの思い。

『クリスの事が好き』

余りにも単純なその思いは、幾重にも降る雨によって隠され、様々な思いと絡み合います。

その結末は
クリスが自分を選んでくれた という事実。

そして、
クリスが自分に気づいてくれなかった という事実。

○トルティニタ ――帰りましょう、私たちの故郷へ

最後の場面、全てを話すと心に決めたトルタの言葉。
しかし、その心にあったのは明確な「別れ」の意思。

クリスは、アルよりも自分を選んでくれた。
しかし、それは本当の意味で『トルティニタ』という
全てを受け入れるには至らなかった。

そして罪を懺悔する相手も、もうこの世にいない。
故に、自分はクリスの傍にいられない。
それがトルタの出した結論でした。

このシナリオとal fineシナリオの違いを分ける行動は、両者ほぼ一点のみ。
トルタにとっては、クリスを信じ、ありのままの自分で彼に向き合ったかどうか。
クリスにとっては、トルタを信じ、彼女を待ち続ける事ができたかどうか。

その答えこそ、トルティニタにとっての最後の審判。
自分はクリスの傍にいるべきなのか、それとも…。

彼女の心を、迷いを知るための舞台は、
al fineシナリオにおいて用意されています。

だからこのシナリオでは、せめて
彼女の『嘘』に素直に騙されてあげてください。

○アリエッタ ――私はもうすぐ消えるから

トルタに全てを託し、その命を終えたアリエッタ。
リセやファルに託した時がそうであったように
最後も笑顔でクリスを見送ります。

トルタの様子がおかしかった時、クリスより早く気づいたアリエッタ。
手紙も変装も、トルタの行動の全てを受け入れ、
二人の選択を、未来を祝福したアリエッタ。

誰よりも心配し、誰よりも信頼し、
そして愛すべき双子の妹に、全てを託したアリエッタ。

しかし、トルティニタの取った選択は
最後の一線において、アリエッタの思いを受け取る事ができませんでした。

アリエッタは「フォーニ」という存在だけであり続ける限り、クリス達にいかなる未来があったとしても、それを見ることは叶いません。
そんな彼女ができることは、ただ、幸せな未来を望み、願う事だけ。

トルティニタシナリオは、クリスとトルタの物語です。
しかし『フォーニ』という存在を理解する為に、重要な鍵が隠されているシナリオでもあります。
フォーニENDに到るために必要な欠片は、フォーニの一挙一動に、そして言葉に篭められています。

劇中で存在するアリエッタからの手紙。
劇中で登場するアリエッタの言動。
その二つの『幻想のアル』に騙されているうちは、それは見えてきません。