al fineシナリオ紹介

※注意:この先の文章はシンフォニック=レインの物語の重大なネタバレを含みます。
全エンディングをクリアしてから、お読み頂けるようお願いします。


◆al fineシナリオ(トルティニタ裏 シナリオ)

『al fine』 「終わりまで」という意味を持つ音楽記号。

名前からしてアルのシナリオと思いきや…その実は、トルティニタのシナリオ。
物語に隠された最大の『嘘』の真相編。

――ピオーヴァ。
かつては雨の街といわれたその街も、今ではすっかり音楽の街として知られ、
雨は一ヶ月にほんの数える程しか降らない、青空の下にありました。

トルティニタはその街で手紙を書き続けていました。
アリエッタとして。遠い故郷でクリスを待っている双子の姉として。
アルの服を着て鏡の前に立てば、いつだってアルになりきる事ができる。
クリスが望み思い描く『幻想のアル』として。

不幸な事故。眠り続ける双子の姉と、
それを忘れてしまい、今も降り止まない雨の中にいるクリス。
クリスの為に、クリスの未来の為に。
彼女は自分とアル、二人の人間を演じ続けていました。

しかし、クリスの卒業演奏のパートナー候補として練習を続けるようになってから、
少しずつ、何かが変わっていきました。

近づいていく距離。近づいていく心。
アルへ、そしてクリスへの罪悪感が彼女を押し潰していきます。
幾重にも重ねた嘘、幾重にも重なる悲しみの雨の中で、それでも彼女の中心にあり続けた思いは、
『クリスのことが好き』
という、たった一つの真実でした。

求めたい。けれど求めてはいけないもの。
ずっと求めていた事は、クリスに振り向いてもらうこと。

手紙を使い、アルの服を着て、クリスの思いを推し量る。
それでも最後には、自分自身で決めなければいけない。
「私は、トルティニタ」
クリスが自分を好きだといってくれるなら。アルよりも自分を好きだといってくれるなら。
私は一生彼を支え続けよう。

多くの迷いの果てに、トルタが辿り付いた結論。
彼女は最後の夜に『トルティニタ』として会いに行き、クリスにその全てを話します。
未来に進むために、アリエッタに会うために故郷へ戻る二人。

けれど、そこにあったものは『アリエッタの死』という現実。

「話そうか、これからのことを」

二人はレクイエムを奏でます。
鎮魂歌は、ただ残された者たちの為に。
未来の為に、空に吸い込まれていくのでした。

al fineシナリオ。
このシナリオは、今まで隠されていた多くの謎の真相編。
クリスにとって、そもそもそれは「謎」と呼ぶものではなく、
「嘘」と呼ぶものですらなかったのかもしれません。

ただ、見えていなかっただけ。気づかなかっただけ。

このシナリオでは、今まで絶対的なものであった主人公「クリス」の主観が、雨という幻覚の中にある、不鮮明なものであったことが示唆されています。
トルティニタとしての視点に立った時、
今まで見えてこなかった多くのものが見えてきたはずです。

このシナリオは、単体の物語として見る事は難しく。
トルタシナリオのクリス視点での表、alfineシナリオのトルタ視点での裏。
両方を見て理解する事によってalfineシナリオの結末がより納得できるものになると思います。

トルタの置かれている場所は、クリスの知る世界から一段上の場所とでも言いましょうか、
クリスに関してのみならば、本人よりも多くの事実を把握しています。
また、クリスの言動をある程度決める力すら持っています。

それでもやはり「全てを知る」までには至りません。
クリスのその時々の思い、根底にある真意まではトルタも知る事ができないのです。
そして、最愛の姉であるアリエッタの真意も。
まるで交差する雨のように、それぞれの思いは近く、隣り合わせにあるのにも拘らず。

一旦ここで、それまでにトルタの選んだ選択。或いは出した結論を整理してみます。

・パターン1「クリスが誰も選ばなかった場合」
これは共通BADEND1に相当する結末です。
或いは最後の手紙で「アルのことが好き」とだけ書かれていたら辿り付いたかも知れない結末。
トルタにとっては「クリスはアルを選んだ」という結論。
『アルがクリスの支えになっていると感じられるなら、私は二人の前から姿を消そう』
トルタはクリスに全てを話し、クリスは眠るアルの傍にい続ける。それでいい、という結論。

・パターン2「クリスがアルと自分以外の誰かを選んだ場合」
これはリセEND・ファルENDに相当する結末です。
アルからの手紙という手段を使い、クリスのパートナーへの思いがアルへのそれを上回ったと確信した時。
「クリスの選んだ人に全てを託す」という結論。
『クリスを支えてくれる人が、クリスの必要とする人が現れたら、私はその人に全てを話そう』
トルタはリセ、或いはファルに思いの全てを話し、クリスの選んだ選択を受け入れ身を引きます。

・パターン3「最後までクリスを試してしまった場合」
トルタEND。或いはalfineシナリオで最後のニンナさんの忠告を聞かずにアリエッタの服を着てクリスに会いに行った場合の結末。
『クリスは私を選んでくれた、それでも私はクリスのそばにはいられない』
アルの死を知り、クリスの傍には誰もいられないと知りつつも出した結論。
この結末の原因は、クリスよりもトルタの方にあったという事がalfineENDで読み取れます。

・パターン4「最後はありのままの自分でクリスと向き合った場合」
alfineEND。或いはトルタシナリオでクリスがトルタを待ち続ける選択をした場合に辿り着く結末。
パターン3との違いは、クリスを試すのではなくトルタ自身が真正面からクリスに向かい、また、クリスを信じることができたかどうか。
『この先ずっと、クリスがどんな道を選ぼうと、私はそれを支え続けよう』
眠り続けるアルの傍らで、クリスの傍にい続けようという結論。

トルタは劇中で「アルはこの先も眠り続ける」と思っていましたが、
残念ながらこの4つの結末のどれであっても、アルの死は逃れられません。
パターン1と3はクリスにとっては同じ未来でしかないのです。

パターン4の場合、alfineENDは上記3つより幾らか救いのある結末だと思います。
トルタはその真意を知らずともフォーニ、アルの思いを受け取り。
クリスと共に未来へと歩む事ができるのですから。

キャラクター紹介でも触れますが、トルティニタはとても人間らしい心を持つ登場人物です。
時に強くもあり、時に弱くもある、一人の等身大の人間とでも言いますか。
喜ぶ時は純粋に喜び、嘘をつく時は心を痛め、時に醜く酷いと自ら呼ぶ選択をし。
多くの悩みを抱え、迷い戸惑いながらも自らの意思を信じ、選択していきます。

少なくともalfineシナリオでは、間違いなく彼女こそが主人公と言えるでしょう。

al fineEND。トルタは救われる事ができたのでしょうか?
彼女に降っていた多くの雨は降り止んだのでしょうか?

答えは出ていますね。
アリエッタは、二人の全てを許し。
クリスはトルタと共に、トルタはクリスと共にあり続けます。

頭上には確かな青空が、その先には確かな未来が存在していました。

○アリエッタ ―じゃあ、もう一度歌ってあげようかな?

それは、風邪をひいたトルティニタがまどろみの中で聞いた、懐かしい声。

このalfineシナリオにフォーニは登場しません。
トルタの視点だからという理由もありますが、上記の夢現の中の声を除いては、物語のどこにも登場していないのです。

なぜか?と考えた時に、私は「その必要がないから」としか答えられません。
フォーニの姿は、クリスにのみ見えるのですから。

アリエッタは二人の全てを許し、トルティニタにクリスを託しました。
死の運命に囚われているアルにとって、このENDは望む限りの最上の結末であったでしょう。
二人の未来を願いその命を終えたアリエッタ。
その最後の刹那には、彼女の中に満足があったと思わずにはいられません。

シンフォニック=レイン

物語は結末を迎え、クリスは青空の下へ
トルティニタはクリスの隣へ
そして…

そして。

あなたが、もしも”その存在”を認めるというのならば。
あなたが、もしも”それ”を思い出すことを望むならば。

もう一度繰り返しの扉を開けて。
このシンフォニック=レインという物語の一番初めから
奏で始めましょう。