※注意:この先の文章はシンフォニック=レインの物語の重大なネタバレを含みます。
全エンディングをクリアしてから、お読み頂けるようお願いします。
◆フォーニシナリオ(アリエッタシナリオ)
――さぁ、妖精の歌を奏でましょう。
それは、S=Rのパッケージにもある。この作品のキャッチコピーとも言える文章です。
ここまでに読み進んできた4つのシナリオ。
多くの嘘と真実が入り混じったそれは、きっと読み終えた人の心に何かを残しているはずです。
3つのシナリオで得た未来。al fineで語られた真実。
それはあなたにとって、どのような意味を持つものであったでしょうか?
何に騙され、何を信じ、何を選び、何を得ることができたのでしょうか?
例えどんな結論がそこにあったにせよ、それぞれの結末は確かにそこに存在しています。
しかし『al fine』という結末まで辿り着いたあなたは
“何か”に気づく事ができているはずです。
ここまで作り上げてきたシンフォニック=レインという名の楽曲が、まだ僅かに欠落していることを。
この時点で、alfineシナリオを終えた時点で未だに不明確な事は2つ。
『フォーニの存在』と『アリエッタの思い』
この二つを読み取る為のピースが、明らかに欠けているのです。
この二つを読み取るという事は、実は一つを読み取ることと同じです。
二つの謎は、一つの答えによって得られるもの。
すなわち『da capo』から始まる、最後のシナリオによって。
フォーニシナリオに至る最初のトリガーは
物語の冒頭で『思い出さなければならない』という選択肢を選ぶこと。
しかしこの選択肢に至る為には、ただ単にda capoで物語を始めればいいという訳ではありません。
alfineシナリオを。もっと言えば、フォーニシナリオ以外の全ての物語の結末に至っている必要があります。
そこに至るまでに得た全ての思い・経験があって初めて辿り着ける物語のはじまり。
“音の妖精フォーニ”、そして”アリエッタ”のシナリオを。
夢の中で、クリスはある声を聞きます。
それは別れの言葉。あるいは何かを忘れて欲しいという言葉。
『僕は、思い出さなければならないんだ』
ただ漠然と、クリスはその思いを抱きます。
卒業発表を控え、パートナーを探さなくてはならないクリス。
しかし、パートナー探しは一向に進みません。
クリスには、ふとしたきっかけから思いついた「ある一つの曲」を作り上げることの方が、大切に思えていたからです。
フォーニの曲。
三年間ずっと傍にいた音の妖精。フォーニの為に、彼は一つの曲を作り上げます。
その曲の出来に満足した彼は、その曲に『歌詞』を付けて欲しいとフォーニに頼みます。
作曲はクリス、作詞はフォーニ。
二人で作り上げた、二人だけの楽曲。
その曲が完成した時、クリスはある思いを抱きます。
『自分にはフォーニと共にいられる時間が、あとどれくらいあるんだろう』
何故でしょうか、クリスは得体の知れぬ焦燥感に駆られます。その正体がつかめないまま、クリスはまた『あの夢』を見ます
『思い出して』 『でも、思い出さないで』
『忘れて』 『でも、忘れないで』
初めの時とは少し違う、矛盾する二つの声。
けれどそれは、どちらが嘘でも本当でもなく、
両方が『真実』の言葉であるようにクリスは感じました。
クリスは卒業までに残された時を、出来る限りフォーニの為に使っていくことを決意します。
パートナーが決まらないと心配するフォーニにクリスはひとつの約束をします。
ナターレの夜に、会わせてあげる。と。
『今日で最後だから』
『それで、あきらめられるから』
そして、ナターレの日を迎えました。
クリスとフォーニは、去年までのアリエッタとのナターレデートと同じ様に、教会へと出かけます。
祈りを済ませ、コンサートホール、そして町の広場へ。
一切れのカルツォーネを食べたクリスは、カルツォーネ屋の店主に一つのお願いをされます。
「アコーディオンにあわせて、歌を歌っていかないか?」
その願いを聞き入れクリスは歌います。もちろん、フォーニも一緒に。
「さっきまで一緒に歌ってた、綺麗な歌声の女の子はどこへ行ったのかな?」
ひと時の楽しい時間を終えたクリスに、店主はそう尋ねます。
クリスは確信します。フォーニの歌声が、この人には聞こえていたことを。
そして、卒業演奏に選ぶべきパートナーを心に決めます。
夜。クリスはフォーニに卒業演奏のパートナーを見せると言い
彼女の前に小さな手鏡を出しました。
クリスが選んだパートナーとは、フォーニだったのです。
パートナーを探さず、あまつさえ妖精である自分をパートナー選ぼうとするクリスに、
フォーニは悲しみを覚えます。彼女の歌はクリス以外には聞こえないはずなのです。
『このままではクリスは、学院を卒業することができなくなってしまう』
ちゃんとしたパートナーを選ぶまでクリスの前に姿を現さないと言い、姿を消したフォーニ。
何度名前を呼んでも、叫んでも、彼女は出てくる様子がありません。
彼は、いつしかどうしようもない孤独感に苛まれていきます。
ベッドの中で蹲るクリス。クリスは、風邪を引いていたのです。
深いまどろみの中で、クリスには今までにも何度も聞いたあの声が聞こえました。
『クリス』
『私が悪かったの』
『ごめんなさい』
『私じゃ駄目なんだ』
『見守っているから』
『クリスのフォルテールが聞きたい』
『優しい声が聞きたい』
『笑顔が見たい』
『ごめんなさい』
『トルタ』
『ごめんなさい』
『思い出さなくていいから』
『私はここにいるから』
『愛してる』
『クリス』
『好き』
『好きなの』
『クリス』
『――思い出して』
『思い出して』
『忘れないで』
『思い出して』
三年前のあの日。
星が降りそうな夜空の下、アリエッタと歩いた記憶。
ずっと忘れていた。
思い出せなかった記憶。
三年間待たしてしまうかもしれないけど。
きっと君の元へ戻ってくるから。
『うん、待ってる。』
『うん、待ってて。』
大切な約束。
そして…その後の記憶。
――思い出したくない。
――でも、思い出さなくてはならない。
――――クリスは、全てを思い出します。
「クリスには、私が必要なんだよね?」
「私も、クリスを必要としている」
全てを思い出したクリスと、フォーニ。
二人の間には言葉すら、もうあまり必要ではありませんでした。
二人は、最後の卒業演奏に臨みます。
フォーニの歌は、クリス以外の人間には聞こえないはずでした。
けれど、その最後の演奏を終えた時。
二人には割れんばかりの拍手が送られます。
その歌声は、確かに会場内の人々の耳に届いていたのです。
卒業発表を終えた二人は、故郷へと帰ります。
アリエッタの待つ、青空の下へ。
『僕はここで、この狭い病室で一生を終えようと、本当にそれで構わないと思っている』
『戻るべきこの場所に、戻るべき人と戻った』
それこそが、クリスにとって本当に最後の選択。
そして――。
シンフォニック=レイン フォーニシナリオ。
交差する雨の物語は、ここに静かに幕を閉じます。
その雨の先にあるものは、どこまでも続く青い空。
そして何よりも最愛の人と共にある、未来。
フォーニシナリオにおいて一つ疑問が残るとしたら、
「なぜフォーニの声はクリス以外に聞こえたのか」
という点。
これについて考えてみます。
演奏パート失敗時には誰にも聞こえない描写がされていますが、
成功時には明らかに聞こえている描写が為されているので、前者のパターンは考慮から外します。
最初に「フォーニの歌はクリス以外には聞こえない」という前提ですが。
フォーニは外出する事自体稀なので、彼女の歌を聴く機会を持つ人間がまず少ないです。
劇中でその声を聞く機会があり、且つ聞き取れなかったのは以下の六人。
トルタ・ニンナ・リセ・ファル・アーシノ・コーデル
例外として、短編集「猫と妖精と、時々雨」で猫のソラーレが彼女の声を聞いています。
動物だから聞こえたのか、彼が生者ではないから聞こえたのかは定かではありませんが。
更にニンナについても、フォーニの声が聞こえていた可能性があります。
プレリュードのトルタのお話、そしてトルタルートでフォーニを連れてニンナの家に行った時にも、そうとも読み取れるような描写があります。
上の例外を除けば「フォーニの歌はクリス以外には聞こえない」は、そもそも機会を持った人数が少ないものの、ほぼ間違いないといえます。
次に「フォーニの歌声が聞こえる人の増減は、卒業演奏とその前とで変化があったのか」どうかですが、
これは、コーデルが卒業演奏時とその前でフォーニの声を聞く機会があり、
且つ、前者の時にしかそれを聞くことが出来なかったことから、
フォーニの歌声には、卒業演奏とその前とでは何らかの変化があったものと推測できます。また、その『変化』こそが、クリス以外に歌声が聞こえるようになった理由だと思います。
その『理由』として、ここで立てられる仮説は2つ。
・クリスがフォーニという存在を強く認識したため。
・フォーニ自身が自己という存在を強く認識し確立させたため。
前者の根拠は、妖精の本で語られる「妖精という存在の有様」から。
『妖精と言う存在は、誰かが知覚したからこそ存在し、その意味を持つ』
つまりクリスがフォーニと向き合い、彼女の存在を現実のものとして強く認識したため
フォーニの歌声も、現実に『存在する』ものとして、他者に知覚されるまでに至った、という仮説。
後者の根拠もそれに準じます。
前者に加えるなら、クリスがアルを思い出したことでアル、フォーニ自身が自己の存在理由を手に入れ。それを自覚したことで、より強く世界に存在する力を得た。
という仮説。
フォーニであるアリエッタが「生きる意思」を持った為、その生への思いの強さにより
審査員など「生者」に聞こえる「生者」としての声を持ったという推測です。
フォーニシナリオ考でも触れますが、彼女が目を覚ます要因には彼女自身の心境の変化が不可欠です。
「死」へと向かっていた彼女の体に「生」という活力が戻った。
その過程にあった変化こそ、フォーニの歌声が多くの人に聞こえるようになった理由ではないかと思います。
少なくともフォーニの歌声に何らかの変化があったことは間違いなく、
その変化をもたらした出来事は「クリスがアルを思い出した」しか考えられません。
明確な回答がない以上、完全に証明は出来ませんが、
この二つの仮説のどちらかは正しいのではないかと考えます。
個人的には、その両方ともが「理由」だったのではないかと結論付けました。
さて、このシナリオにおいて、最後に残ったフォーニという存在の謎が解け、シンフォニック=レインという一つの楽曲は完成を迎えます。
ですが知っての通りこの物語の中には多くの『嘘』そして『それ以外』が混じり合っています。
それゆえに、このENDに対しては発売後から様々な議論が行われていました。
何を真として、何を嘘とするか。
或いは何を信じて、何を信じないのか。
次の章では、このフォーニシナリオを中心に物語全体に対しての、自分なりの意見と考察を書いていきます。
私見や推測が多々入るそれは、或いは見る人に不快な思いをさせる可能性もあるかもしれません。
まずは、それを最初にお詫びしておきます。