キャラクター考察<Ⅰ>

※注意:この先の文章はシンフォニック=レインの物語の重大なネタバレを含みます。
全エンディングをクリアしてから、お読み頂けるようお願いします。


ここからは、シンフォニックレインに登場するキャラクター達についての感想や考察のようなものを書いていきます。

◆目次◆
♭リセルシア・チェザリーニ
♭ファルシータ・フォーセット
♭トルティニタ・フィーネ


♭リセルシア・チェザリーニ

リセ、リセルシアという登場人物を知るに当たって、まずは彼女のシナリオやそれ以外のシナリオにおいて、彼女が物語上どのような目的を持ち、またどのような問題を抱えているかという点から考えていきます。
以下ではその人物の目的を「光」、問題を「雨」、未来を「青空」と呼称します。

●リセルシアにとっての光
まずは彼女の目的ですが、リセはプレリュードの当初より控えめな性格であると語られており。リセシナリオにおいても明確な『目的』というものを持ってはいません。しいて言うならば『歌を歌いたい』という漠然とした思いを持っているくらいです。

ですが、この時点で彼女の最も望む未来を挙げるとするなら。
『誰にも気兼ねなく、大好きな歌を自由に歌えるようになること』
で問題ないと思います。

●リセルシアに降る雨
全シナリオにおいて、彼女は初めから2つの問題を抱えています。
1.『学院内に流れるリセの悪い噂』
2.『フォルテール科でありながら歌が好きで、隠れるように歌を歌っていること』

1つ目は外的問題であり、2つ目は彼女の内的問題であります。
2つ目の問題から派生する『グラーヴェの虐待』と問題もありますが、その問題については『クリス』という別の要因が関わってくるので、ここでは省きます。

この2つ問題を解決する術を彼女は知らず、それを解決しようともしていません。
リセシナリオとは言ってしまえば、クリスがリセに手を指しのべることによって、この『2つの問題を解決する』ことが目的の物語です。

●雨の止む条件
1つ目の問題は『噂は嘘であると話し、誤解を解く』という直接的手段で解決可能です。
クリスはこれを『リセの歌を皆に聞いてもらい、彼女の内面を知ってもらう』という方法で解決を図ります。

リセシナリオの終盤において、2つの問題から発生した『グラーヴェの虐待』という問題。そこから逃れるために「ピオーヴァから逃げ出す」という選択を二人は選ぶ為、
一つ目の問題を解決しようとクリスの取った行為が、どれほどの効果を挙げたのかを知ることはできません。
しかしクリスとリセの努力の結晶である演奏に対して、送られた拍手等を見れば、ほぼ成功と呼べるものであったと思われます。

2つ目の問題を解決する手段は2つ『リセが歌を諦める』『グラーヴェがリセを諦める』のどちらかです。
少なくともリセシナリオ内においては彼女が『歌』を得るためには、その代償として『父親』を捨てる、という選択をしなければなりません。

実父グラーヴェとリセとの関係は、ある意味とても強固なものであり。
リセシナリオにおいては彼の存在こそが、二人にとって最大の壁として立ち塞がります。

クリスはリセがグラーヴェから受けた虐待の様子とリセの現状を見て。
『このまま放っていても結果は同じ、リセは取り返しのつかないことになる』という結論を出しています。
この結論は「実は正しくなかった」とも読み取れるような描写が短編集において描かれていますが、

とはいえ未来の事など、ましてやグラーヴェの心境変化など考えられないクリスにとって、リセを父の元から逃れさせることが、その時の最善の選択であったといえました。

結果、娘に裏切られ深い悲しみを負ったグラーヴェは彼女から歌を奪い。
リセルシアENDの結末を迎えることになります。

●リセルシアの青空
声と記憶を壊された彼女は、最後のシーンにおいてそれを取り戻すような描写がなされています。
それを信じるならば、リセは父の束縛から解放され本当の意味で自由になれたということです。
愛する人と共に歌を奏でることのできる未来。
束縛から解放された彼女の未来は確実に明るいものであったでしょう。

リセシナリオのアフターに位置する『こんな空の下で』では、彼女は声を取り戻したものの、回復中に無理をして歌を歌おうとしたため
結局、歌を失ってしまうという結末が描かれています
その代わり彼女は、父親の愛情の一部を知ることができました。

●ifの青空
それでは彼女がもし、クリスとパートナーを組まなかったとしたら。
どのような未来があったのかを推測してみます。
リセルシアは後に紹介する短編集の描写が豊富なので、その推測が最も容易です。

リセシナリオ、ファルシナリオ以外でのリセは、恐らく高確率で『ファルと共に歩む未来』が存在しています。
ファルとパートナーを組む事がシナリオ共通であると仮定すれば、卒業演奏の練習や2年生になってからのファルとの音楽活動により、旧校舎で歌を歌う機会が自然と失われていったのではないかと推測できます。
その場合『歌を諦める』という手段を持って2つ目の問題を解決することになります。

更に言うと『三人目のマリア』『To Coda』で語られる未来においては、彼女は1つ目の問題も解決しています。他ならぬその問題を作り出した張本人。
ファルの手によって。

その未来においてリセはファルを慕い尊敬し、ファルはリセに自らの片翼を預けます。
プロになったファルのパートナーとして、フォルテニストの道を歩み始めます。
この未来は、リセにとってそう悲観する未来ではないと言えるでしょう。
『歌』を捨てた代わりに『姉』とも呼べる存在を、そしてフォルテニストとしての未来を得たのです。

付け加えると、彼女はその未来において『歌』を完全に捨てた訳でもないのです。
コーデル・ファル・グラーヴェ・リセの四重奏のシーンにおいて、彼女は歌を歌っています。またそれを咎められている描写もありません。
その未来に至る過程には『ある夜、リセがグラーヴェの元を訪れ、感謝の言葉を伝えに来た』『時がグラーヴェの心の傷を癒しつつある』という描写がされています。

グラーヴェの変化。「悲しみの音色」から、エスクがいなくなる前に奏でていた「幸せの音色」へと。優しく暖かい人物へと戻りつつある父と、或いはそんな父の本当の支えになるかもしれない、講師のコーデル先生。
そして、心から尊敬するファルと共に歩む未来には『歌』すらも存在していました。

『encore』で描かれた未来においては、彼女は精神的にも成長し、ファルと共に『ピオーヴァの二輪の花』と称されるプロフォルテニストとして名を馳せ、本当の意味で「姉」となったファルを呼び捨てで呼ぶ程の間柄になっています。

シナリオ紹介でも述べましたが、彼女はクリスとの出会いとは別の形であっても、『また別の幸せ』を得ることができるのだと、私は思います。

●リセの内面
リセの内面や思いを知る為の資料もまた、短編集に存在します。
『こんな空の下で』と『いかさまコイン』において彼女の心理描写が為されています。
そこから見える彼女の内面は、とても純朴で優しい心の持ち主であるということ。
そしてもう一つは「あまり物事を悲観しない人物である」という面です。

彼女の意思の強さは、リセシナリオにおいてクリスの傍にいると決めた時からの言動でも分かるように、心に決めたことを頑なにやり遂げる力を感じることができます。

元来の彼女の性格は、外面から見えるものと真逆で「とても前向きな性格」で
あるのではないかと感じました。物事や人を善の面で捉えることからも、それが伺えます。それゆえに、騙されやすく傷付き易い小動物のような一面もあるのですが。

また、そんな彼女の性格は彼女の歌にも反映されています。
『リセンヌ』『Hello!』の両曲ともの歌詞には
抑圧からの解放、或いは明日への希望を歌った、強い意思が感じられます。

「三人目のマリア」時点でのリセは、アーシノやコーデルから見ても、明らかに以前より自信を持ち、人と話す事ができる人物に成長しています。

思うにリセは、それが誰であってもほんの少し手を差し伸べてくれる人さえいれば。あるいはきっかけがあれば、未来に向けて力強く歩くことのできる。強い心の持ち主なのではないでしょうか。

彼女に必要なものは努力でも才能でもなく、一歩を踏み出す『勇気』
それがあれば例えどんな未来であっても、リセの青空は明るく輝いているのだろうと思います。

 


♭ファルシータ・フォーセット

ファルシータという登場人物を考える上で、初めに知らなければならないのは、彼女が『ただ二面性を持つだけの人物ではない』という点です。
確固たる意思を持ち、それを忠実に実行する行動力。それがあるのは確かです。ですが、彼女もまた他の登場人物と同じ様に、迷いや悩みを持ち、多くの感情によって揺れ動く『人間』であることを知らなければならないと思います。

●ファルシータにとっての光
ファルにとっての希望、彼女の目的はとても明確です。
『プロの歌手になる事』『歌を歌って生きていく事』
彼女にとってこの夢は、他の何事にも代えられない「生きる意味そのもの」

彼女はこの未来を得るために多くの努力を重ね、
あらゆる手段を持って実現させようとしています。

●ファルシータに降る雨
そんなファルシータにも心に降る雨があります。
彼女の悩み。ファルシナリオで読み取れる限りはそれは、
1.『自分一人だけの力では夢を叶えられないかもしれないという不安』
2.『夢の為に形振り構わず生きてきた、ファルの生い立ちそのもの』

1つ目はファルにとって最も危惧すべき問題であり、唯一の夢である、歌を歌って生きていく未来そのものを失う可能性すらあるものです。
ファルシナリオで彼女は自分と組み最高の評価を受けられる卒業演奏のパートナーを探しており、それに足る存在として「クリス」を見つけ出し、彼を手に入れようとします。

その過程で発生した新しい問題が『恋を選ぶのか夢を選ぶのか』の選択。
彼女はクリスの音色に恋をし、クリスに対してもまた、恋をしてしまいました。
終盤において彼女が取った行動は、この3つ目の問題に決着をつけた上で、1つ目の問題の答えをクリスに託す。という意味を持つものであったと推測します。

2つ目の問題は、彼女の人生の初めから降り続いている雨そのもの。
彼女は夢を叶える為に努力を惜しみませんが、逆にそれを怠ってしまえば、たちまち全てを失ってしまう。という非常に危うい位置にあるのです。

クリスのように「学園を卒業できなければ故郷の町に戻る」などという選択肢は彼女にはありません。
ファルにはどこにも『帰る場所』が存在していないのです。
大海へ向かって飛び立った鳥のように、一度夢に向かって歩き出した彼女には、戻る場所も、休む場所すらも存在していなかった。

ただひたすらに、夢に向かって休むことなく羽ばたき続けてきたファル。
人並みの生活、人並みの夢を見るために。
ファルは『人並み』を遥かに超える努力を重ね続けてこなければならなかった。
人を利用し、時に切り捨てる事も選択しなければ、そこには辿り着けなかったのだと思われます。

●雨の止む条件
この二つの雨が止む条件は一つ。すなわち『夢を叶える』こと。
ファルENDにおいては、クリスはファルの夢を叶える為に、彼女の片翼となってその力を預けます。

とはいえ、最終的にそれを叶える事ができるのかはファル本人次第。
他の人間はその力になることはできても、直接的に解決することはできません。

●ファルシータの青空
美しく希有なる悲しみの音色を奏でるクリスのフォルテール。
あのグラーヴェですら認める『才能』という片翼を得たファルENDの彼女は、
限りなく夢の実現に近い所まで辿り着く事ができていたと思います。

クリスを得られなかった未来でさえ、彼女はその夢の実現の一部。
すなわち『プロになる夢』を叶えています。

夢の為ならば恋すらも諦めると覚悟を決めたファル。
クリスを得る事ができたファルは、いうなればその両方を得たといっても良いでしょう。
しかし、ファルENDにおいてのファルにとってのクリスの存在は。
ただ単に『音色を得るために利用するだけの存在』では、もはや無かったはずです。

「この先に何があっても、ずっと傍にいる」
そのファルの言葉を考えるに、ファルENDの彼女にとってクリスの存在は
『夢』すらも越える意味と価値を持つものにまでなっていた可能性が高い。と私は考えます。
たとえクリスが『音色』を失ってしまったとしても、彼女はクリスを切り捨てる事は、決してできないと思います。

もちろん『失わせない』為にも、彼女はあらゆる努力を惜しみません。
“自分の帰る場所はここ(ファルの隣)しかない”とクリスに知らしめる為に、
「かつての恋人の死」という、決して止まぬ雨の中に彼を導こうとも…

●ifの青空
クリスの音色を得られなかった、クリスと共に歩む未来を得られなかった彼女の未来は
一体どのようなものだったのでしょうか?

ファルEND以外の卒業演奏では、ファルは恐らくリセと組んで発表に臨む事になると思われます。
もしかしたら、ソロで発表に臨む未来もあったかもしれませんが。
彼女の歌の実力は、数え切れない努力によって裏付けられた確かなもの。
劇中に登場するキャラクターの中で、フォーニに次ぐ歌声を持つのは恐らく彼女でしょう。

たとえソロで望んだとしても、ほぼ間違いなく彼女には、プロの楽団からの招きがあったはずです。

短編『三人目のマリア』『To Coda』において語られる半年後の未来では、ファルはリセルシアというパートナーを得、チェザリーニ家の力を得ることになります。
プロの舞台に立ち。その中でも惜しみない賞賛を受けた彼女。
「リセが卒業するまで、私は待つつもりです」と語るファルですが、
もはやこの時点でファルは夢の一つである『プロになる』という目的をほぼ達成できています。

彼女の夢の終着点はただ『プロになること』ではありません。
この町で、この国で一番の歌手になること。
その為には、まだまだ彼女は努力を続けていかなければならないでしょう。

しかし、アーシノは彼女の実力を以下の様に評価しています。
「チェザリーニの名で得た評価など一時的なもの。それが剥がれ落ちた時、彼女はすぐに本当の名声を手に入れるだろう」

リセと共に歩む未来では、ファルもまたリセの影響を受け、少なからず変わっていきます。
以前は決して見受けられなかったという、彼女の心からの感謝の言葉。或いは『純粋さ』や『優しさ』という目に見えないものでさえ。

確信して言えることは、ファルシータは、たとえ先にどんな未来が待ち受けていたとしても、必ずその夢を叶えるために努力を続け。そして、最後にはそれを叶えるであろうということでしょう。

『encore』で描かれた15年後の未来では、彼女はピオーヴァにおいてその名を知らぬ者はいないほどの歌姫として活躍しています。10年前にチェザリーニ家の養子として迎えられており、今ではリセルシアの姉として。リセと共に『ピオーヴァの二輪の花』と称されつつ、音楽院の特別講師にも呼ばれ熱心に後進を指導することもあります。

知的な美しさはそのままに、彼女はチェザリーニ家の力を使い、自らと同じ孤児たちの中の希望者全員をピオーヴァ音楽院に新設した初等部に迎え入れることまで成し遂げました。ゆくゆくは市長になり、より多くの孤児を救いたい、彼らの親にはなれなくとも、姉にはなれる。と語るほどの人物へと成長していました。

●ファルの内面
夢の為にあらゆるものを捨てて生きてきたファル。
残酷な世界を憎み。裕福な人間を妬み。
人と人との関係を、利用しされるだけのものだと言い切ったファル。

過酷な労働と、僅かな食事、毛布さえ与えられぬ眠り。
その中で見つけた、たったひとつの夢。
その夢を目指すために、多くのものを裏切ってきた。
多くのものを捨ててきた。

けれど、彼女に『後悔』は許されません。
それは、今まで裏切ってきた人全てをもう一度『裏切る』ことに他ならないのだから。

ただひたすら前に進み続ける。それこそが彼女の贖罪。
生きる意味そのもの『ファルシータという人間の全て』でした。

対人関係も夢の為には重要なもの。それを知ったファルは、多くの人に信用され、また愛される存在になることができました。
けれどそれは『本当の自分』に向けられているのではない。ファルはそう感じていたはずです。

「本当の自分を知ってほしかったから」
ファルシナリオで語られる彼女の本心。
多くの人を裏切り、こんなにも薄汚れてしまった、醜い自分の心。
ファルは自分自身でそれを自覚しています。

自覚していて、それでもそんな自分を誰かに知ってほしかった。
自分の全てを曝け出し、それを知った上で「好きだ」と言ってくれる人間を求めていた。

そんなファルの心にあったものは、どうしようもない『孤独感』だったのではないでしょうか。
自らの生き方を許し、力になると言ってくれたクリスに片翼を託したファル。
裏と表2つのコインを持ちながら、リセの選んだ「表」のコインを投げたファル。

『託す』ということは、不確定な未来に自らの夢を賭けることに等しいはずです。
それでもファルは、その翼を誰かに託さずにはいられなかった。
彼女は『愛』というものに飢えていたのかもしれません。

ひとりぼっちよ 人はひとりさ
だから求めるのね 理解者を

これは「Hello!」の歌詞の一部ですが、これと同じ思いをファルも抱いていたのだと思います。
そしてそれはクリスであり、リセであり、もしくは他の誰かであるかもしれなかった。

彼女自身の思いを端的に知るに一番相応しいのは、やはり彼女自身の歌かと思います。
『雨のmusique』『メロディー』この2曲の歌詞には、
彼女の「本心」がこめられていると感じることができました。

『雨のmusique』からは、愛に飢えた彼女の心を。
『メロディー』からは、彼女の迷いと決意を。

ファルの生き方に『共感』ができる人は余りいないと思います。しかし『理解』をすることならできるのではないかと思います。
彼女の素顔の喜怒哀楽、或いは弱さを知り、その上の気高さを感じることができたのならば。

彼女の生き方には”善”も”悪”も大して重みを持ちません。”嘘”と”真実”でさえも。
彼女の持つ天秤の片皿にあるものは常に『夢』
もう片皿は空白なれど、そこに何かを乗せる事ができるとしたら『愛』なのではないか。

彼女は本作の中でも、特に人気の高い登場人物であると感じます。
彼女の魅力は、彼女の生き方にこそあるのではないかと私は思います。

恐らくはその『美しさ』に惹かれ、その『危うさ』にも惹かれているんだろう。
そのような結論に至りました。

そして彼女が『夢』を叶え、その『愛』すらも満たされた未来であれば、彼女の持つ意思の力は愛を帯び、自らだけでなく他者を、やがてピオーヴァの未来をも変えていくものに、なっていくのかもしれません。


♭トルティニタ・フィーネ

トルティニタという登場人物の内面を捉えようとした時、クリスまたはトルタ自身からの視点だけでは足りないと感じました。それには短編集の助けが大いに必要ですが、リセそしてアーシノから見た彼女の姿も踏まえてこそ、見えてくるのではないかと考えます。

まるで実在する人間のように、様々な視点から彼女の言動を捉えて、
初めて、彼女の本質を理解する事ができるのだと感じています。

ここまでに紹介した「リセ」と「ファル」
彼女達自身も、多くの面で見れば様々な表情が見えてくるのは間違いありません。
しかし、ある意味で端的に捉えてしまえばリセは”純粋無垢”であり。
ファルは”狡猾で利己的”な面が目立ってしまう事は、否定できない事実だと思います。
「白と黒」とまではいきませんが、両極端な人間姓を感じるキャラクターであると言えるでしょう。

それではトルタはどうか、と考えた時。
彼女は「そのどちらの人間性をも感じる事ができるキャラクター」だと感じました。
リセほど純粋に物事を見ることはしませんが、
ファルほど利己的に物事を見ることもトルタにはできないでしょう。

白でも黒でもない灰色。故にトルティニタからは、
どうしようもない「人間らしさ」を強く感じることができるのです。

●トルティニタにとっての光
トルティニタの目的とは何でしょうか。
al fineシナリオにおいて彼女自身の視点で語られるそれを見るに「学院を卒業する事」「プロになること」も彼女の中において目的ではありましたが、
「クリスという存在」の持つ価値に比べれば、それらはトルタにとって優先順位の下にあったことは明らかです。

学院に入った当初からトルタ又はalfineシナリオの中盤までにおいて、明確な優先順位一位は『卒業までクリスを見守ること』
その為に『秘密をばらさないこと』も重要でありました。
もっと以前においては、最初の期限は「アルが目覚めるまで」だったのでしょうが、
恐らくゲーム開始時において、トルタもまたアルの事をほぼ諦めかけている描写が見て取れます。

卒業した後の自分とクリスの未来については、トルタも計りかねており、各シナリオ終盤でそれぞれの結論を出してそれを実行しています。
トルタが自分の思いを抑えきれなくなってからは、彼女の根底にあった最も大きな思い。
すなわち『クリスに愛されたい』という願いが彼女の目的になった事も、まず間違いないでしょう。

●トルティニタに降る雨
トルティニタに降る雨。彼女を取り巻く問題は数多く、そのどれかひとつ取ってみても
簡単に解決はできない複雑な問題であることが分かります。
彼女を取り巻く雨を挙げてみます。

1.姉であるアリエッタの事故と現状への悲しみ。
2.雨の幻を見続けるクリスの現状への悲しみ。
3.嘘をつき続け、双子の姉を演じ続ける苦労と重荷。
4.アルを騙り、アルの言葉を用いてクリスを騙していることについて罪悪感。
5.クリスを守り、真実を知らせないために奔走してきた歳月。
6.クリスのことが好きだけど、それを求めてはいけないという葛藤。

アルへの想いを語り続ける手紙を読むのもまた、彼女にとっては辛かったでしょう。
そこに、トルタシナリオ・al fineシナリオにおいて追加される雨があります。

7.アルを騙り、結局はクリスの心を自分に向けさせてしまったという、クリスそしてアルに対しての罪悪感。

挙げてみて分かるように、彼女の中の雨はほぼ全て
『クリス』と『アル』に対して持っている思いから発生したもの。
『トルティニタ自身』の内面的問題であるといえます。

トルタの中で最も純粋かつ強い思いは『クリスのことが好き』というもの。どうしても捨てられないその思いこそが、彼女の雨の根源であるともいえるのでしょう。

彼女はクリスという存在を求める上で、多くの罪の意識を感じ。それ故に慎重になり、臆病になり、時に卑怯ですらあるかもしれない行動を選択していくことになります。

●雨の止む条件
もし、彼女がクリスからの愛を得る目的のみを考え行動していたのなら、上に該当する半分以上の雨は存在していなかったでしょう。
彼女がアルへの思いのみを考えて行動していたとしても同じです。

『トルタはクリスを愛していたが、アルもまた愛していた』
その二人への思いが交差する場所に、彼女にとっての雨は降り続いていました。

雨を止める方法もまた、トルタがクリス又はアルへの思いを捨てることで成し遂げることもできたと思います。

リセ・ファルシナリオのトルタは、クリスの思いが彼女達へ向かった事を確認し、クリスを諦めるという方法にて自らの思いを清算しようとしています。
上で挙げた中で3,4,5の雨は止み、6も苦渋の選択ではあったでしょうが、捨てることで消し去ることになります。
1の雨は”アルの死”という雨に変わり、まだ彼女に降り続けることになるでしょうが。

alfineENDのトルタは、1,7以外の雨はクリスという存在を得て、また彼に許されることで止むことができたものと思います。
1の「アルの死」の雨はすぐには止まないでしょう、けれどアル自身も信じていたように、それは「いつかは止む雨」
7のアルの思いだけは、トルタもクリスもその真意を知ることはできませんでした。正確には「気付くことができなかった」ですが。

「アルはきっと、許してくれる」
真実を得ることができなかった二人は、けれど、そう信じることによって、
『本当に許されていた』という真実を得ることができたのだと思います。

●トルティニタの青空
al fineENDでは、トルタは最も欲しかった「クリスの愛」を手に入れます。その代わりに失ったものもまた、どうしようもなく大きいものでしたが。

鎮魂歌は死者の為に捧げられるもの。
そして、本当の意味で生きる者の為に捧げられるもの。

『ToCoda』の未来において、クリスとトルタは故郷の町で暮していると語られています。
これをal fineENDの二人とするならば、恐らくはトルタは夢の一つであった「プロになる」という夢は捨て、
アルへのレクイエムを奏でながら、クリスと共に故郷の町で生活を送っていると推測できます。

その先のことは誰にも分かりません。彼らの雨が止んだかどうかも、それが『贖罪』なのかどうかも。

――いつか全てを受け止めて、それでも笑える日が来る。
アルのその願いが届く日は、きっと来ると思います。

●ifの青空
では、トルタがクリスを得られなかった未来はどうなっていったのでしょうか。

リセ・ファルENDではトルタは彼女達に思いの全てとクリスを託しましたが、後悔や自責の念はすぐには捨てられなかったと思われます。
たとえ捨てられたとしても「思いを捨てきれた」と言うより「捨てざるを得なかった」と言った方が正しいと思いますが。

アルの死を知り、一人でそれを受け止めなければならなかったトルタの心境は、とても計り知れない悲しいものであったと思います。

トルタ(表)ENDでトルタは「自分はもうクリスの傍にはいられない」と言っていたので、
恐らくはアルの葬儀を終えた後、クリスを故郷に残し、ピオーヴァに戻るものと思われます。
よってファル・リセENDでも、トルタはピオーヴァに戻りプロの道を進むのではないかと推測します。

では、フォーニENDではどうでしょうか。
語られていない以上、推測の域を出ることはないですが
『アルが目を覚ましてくれた、私たちの前に帰ってきてくれた』
その事実は、彼女によって何よりの救いになったであろうことは間違いありません。

望み以上の望み、望むことすら諦めていた、奇跡のような未来。
トルタの雨はクリスとアルの許しによって”1つを除いて”全て止むことになるでしょう。
その”最後の1つ”も、トルタならきっと自分自身で前向きな答えを出すことができると信じています。

●トルタの内面
トルティニタが劇中でどのような思いを持ち、どのような選択をしてきたのか。
その殆どの答えは、彼女自身の視点で語られる『al fine』に存在しています。
しかし彼女の主観だけでは、トルタの本当の姿を読み取るには不十分だとも感じます。

al fineシナリオをプレイ後に、各シナリオをやれば真っ先に感じる事。
それは、時々に見せるトルタの笑顔が「張り付いたもの」であると感じることでしょうか。
三年間ずっと無理に作ってきた彼女の笑顔は、深い悲壮感と長い葛藤の末に固まってしまった「氷の笑顔」のように見えました。

alfineシナリオで彼女自身の主観で語られている限りは、余り見えにくいかもしれませんが、恐らく『トルタの心の負荷』はとっくに限界を超えていて、壊れてしまっているのではないか。
そう感じ取れるほど、トルタは劇中冒頭の時点で追い詰められていたのでしょう。

短編『愚かな詩人』等にてアーシノ視点で語られる彼女の姿は、クリスへの強い執着が故に周りが見えておらず、周囲からも浮いた存在であったことが伺えます。

al fineでクリス視点からトルタ視点に切り替わった時に感じた「クリスの異常性」と同じく、彼女自身もまた、アルの昏睡とクリスを守る日々の中で追い詰められ。とても正常とはいえない状態で日常を送っていたと言わざるを得ません。

認めろ。 醜い自分のことを。
そして、手に入れればいい。 最愛の人を、最悪の方法で

これはal fineシナリオの中で特に印象に残っているトルタの台詞です。限界まで擦り切れていた彼女の精神を、ギリギリで支えていた感情はただ一つ。
『クリスのことが好き』という純粋な思い。

多くの罪悪感に押し潰されながらも、クリスへの献身を続けたトルティニタ。
その果てに自らを”醜い”と罵り、迷いながらも書いたアルからの別れの手紙。

トルティニタの心は醜いのか?
彼女は酷い人間であるのか?

『醜くなんてない』と言うのは簡単です。
しかし、そう決め付けてしまえば、きっと彼女の本質は見えてこないでしょう。

“トルタの心は確かに醜かった”
弱くて、臆病で、利己的で、残酷だった。
人の心の醜さを、人の心にある闇を受け入れなければ
トルティニタという登場人物の全てを知ることはできないと思います。

シンフォニック=レインは、人の心を巧みに描いた物語です。
人の心には必ず秘密の場所があります、それはきっと醜くて、愚かで、弱い心の闇。
善の面と悪の面。誰であっても、両方の面を持っているはずです。
それを知った上で、トルティニタという人物の全てを表す言葉を探すなら。

トルティニタの心は確かに”醜かった”
そして、それと同じくらい”美しかった”

彼女の弁護するのはとても簡単です。彼女の全てを肯定し、全ての罪を許すことも。
けれど結局…自分自身の罪は、自分自身でしか許せないのだと思います。
例え自分以外の全ての人が、それを『罪』と呼ぶことがなかったとしても。

吐き続けていた嘘、隠し続けてきた真実。積み重ねてきた罪。けれどそれらを遡って、根源にあった彼女の真の心は

ただ一つの、純粋で幼い『恋心』

トルティニタと人物を知る上で、本当に理解しなければならないのは”それだけ”なのだと思います。それさえ理解できるのなら、他に何がなくても、彼女の全てを理解できるはず。

だって彼女は”人間”なのですから。