※注意:この先の文章はシンフォニック=レインの物語の重大なネタバレを含みます。
全エンディングをクリアしてから、お読み頂けるようお願いします。
◆目次◆
♭アーシノ・アルティエーレ
♭コーデル・ベルドナーシェ
アーシノ・アルティエーレ。
ピオーヴァ音楽学院フォルテール科の三年生であり、
主人公クリス・ヴェルティンの学院でのトルタを除く唯一の友人。
社交的な性格だが、いつも斜に構えた態度で人や物事と接し、少し人を見下すような面もあるため、彼と深い付き合いを持つ友人はいない。
本編では物語の節々でクリスの前に現れ、クリスへの軽口の中に時折忠告や助言とも取れる思わせぶりな言葉を残すアーシノ。
物語本編において、クリスに影響を与える登場人物としての彼の役割はそこまで大きくはありません。
しかし、物語を脇から支える存在という面から見れば、間違いなく彼もシンフォニック=レインに欠かせない登場人物の一人といえます。
劇中でのアーシノの役割は、雨の幻を見続けるという特殊な環境に置かれているクリスの主観を肯定し、トルタの紡ぐ「嘘の世界」をプレイヤーに信じ込ませることでしょうか。
いくら内向的とはいえ、友人がトルタ以外一人もいない状態では、クリスの状況や性格面などに疑問を持たざるを得ません。
そういう意味でも「クリスの普通の男友達」としての彼の役割は、やや非現実な世界観を現実的なものとして演出するための重要なものであったといえます。
●クリスから見たアーシノ
劇中でクリスはアーシノに対して、以下のような捉え方をしています。
『内向的で愛想のない自分にも気軽に話しかけてくれる人間、少し気障ではあるけれど、今ではトルタと同じ大切な親友』
クリス自身の言葉からも見て取れるように、クリスはアーシノに対して好意的な感情を持ち、アーシノの存在に自分も支えられていると感じています。
事実、ファルシナリオ以外の全シナリオにおいてクリスのアーシノへの評価は、最後まで上記のものから変わっていません。
ファルシナリオにおいても、クリスはアーシノの言動に理解できない点は持ちますが、それでも否定的な感情を持つことはありませんでした。
アーシノ自身の思惑がどうあれ、クリスにとって彼は最後まで良き友人の一人であり、その存在がクリスにとってプラスではあっても、マイナスになるようなことはなかったのです。
●アーシノの内面
そんなアーシノの内面は、短編「三人目のマリア」「愚かな詩人」において知ることができます。
alfineシナリオにおいて、アーシノはクリスに近づく理由を「クリスの才能を利用するため」と言っていますが、それは彼の本心と呼べるものではないと思われます。
クリスについて、トルティニタについて、ファルシータについても。最初からアーシノはクリスより一歩踏み込んだ情報を所持していました。
物事をやや上から見られる立場にいながらも、彼は何らかの行動を起こすわけでもなく、流されるままの立ち位置を維持しています。
「いかさまコイン」のファルシータの指摘からもあるように、アーシノはクリス並。或いはそれ以上に優柔不断で未熟な人間であったのでしょう。
本編中での彼はファルに踊らされたピエロであり、彼の名前の由来「愚かな詩人」と呼ぶに相応しい、矮小で情けない姿が彼の本性であるということが読み取れます。
しかし、そんな未熟で優柔不断な彼もまた「揺れ動く感情を持った一人の人間」であるということを、上記に挙げた二つの短編集で知ることができます。
小貴族の次男坊というそれなりに裕福な身分と、誰からも期待されないという境遇。親に乗せられたレールの上を歩き、自分の夢である「詩人」を目指すことも躊躇っていたアーシノ。
彼にも彼なりの悩みがあり、彼なりの葛藤を経ながら自己の未来を模索していました。自分の弱さも優柔不断な面もある程度理解していて、それを受け入れることもまた迷っていたのです。
トルティニタはアーシノを「お人よし」と呼んでいます。「クリスを利用する」と言う彼の言葉を聞きながらも、彼にはそんな度胸もないだろうと分かった上で、クリスの傍にいることを許していました。
そして、それがその通りであったことも劇中で知ることができます。
彼はファルのように、人を利用し切り捨てられるような人間ではありません。かといって「誠実」な「善人」と言える人間でもなく、「未熟」で「お人よし」或いは「愚か」とも呼べる弱い心の持ち主でした。
●アーシノの未来
そんなアーシノの未来に影響を与えた人物は二人。
「ファルシータ・フォーセット」と「エスク・マリア・ローレン」
両者は彼の紡ぐ詩に対して「あなたの言葉は美しい」と称しました。しかし、その理由についての二人の答えは正反対でした。
前者は彼の心の弱さや愚かさを全て把握した上で、その理由をこう結論付けます。
「あなたの心が美しくないから」
後者は彼の迷いや弱さを読み取り、その上で詩を紡ぐ彼の姿を見てこう結論付けます。
「あなたの心が美しいから」
アーシノはファルと出会い、彼女の内面の一部を垣間見る機会を得て、彼女に畏敬の念を覚えます。
彼が尊敬する二人の人間「母親」と「聖母マリア」。
それに匹敵する三人目に挙げたのがファルシータでした。
『もし自分に出来る事があったのなら、全てを彼女に捧げただろう』
アーシノはファルに対して、そこまでの覚悟を持っていたことが「三人目のマリア」で語られています。
結局ファルはアーシノを求めず、アーシノもファルの力になれないことを知り、二人の関係は「少し親しい友人」という地点で終わってしまいましたが、
もし、アーシノの音にクリスのような『何かを感じさせる』ものがあったのなら…或いはファルはアーシノを選んでいたのかもしれません。
もう一人の彼の尊敬する『三人目のマリア』
マリア・エスク・ローレン。
アーシノは彼女と出会い、僅かな時間の中で彼女に惹かれていきました。
アーシノが惹かれたのは彼女の外見の美しさもあったのでしょうが、恐らくはその心の純粋さ、迷いの無さ、そして母性のようなものであったのだろうと推測できます。
自己の未来を定められず、今の生活の目的をも見出せなかった彼にとって、エスクの自由な生き方は、自分の夢の答えの一つとして、そして尊敬に値する価値を持つものとして、アーシノの道を示したのです。
エスクと共にピオーヴァを逃げ出したアーシノ。
コーデルが知る『エスクという人間の本質』を考えるのであれば、彼もまたいつか彼女の気紛れに踊らされ、或いはグラーヴェのような道を辿ってしまうのかもしれません。
そんな彼の未来は、母親に対する幼子のようにエスクの手の平の上にあり。その先の未来を予測することは難しいと思われます。
しかし、それでも彼が得た物は確かにありました。
貴族という立場を捨て、今の生活を捨ててでも得たいと思うものに出会ったアーシノ。
それが善であれ悪であれ、彼は『選択』を為すことが出来たのです。
生来の性格、優柔不断であった彼にとって、それは間違いなく未来の糧となる『光』と呼べるものであったのではないかと思います。
アーシノは本編に登場する人物の中で、恐らく最も”弱く”最も”愚かな”人間であったと感じます。しかし多くの人にとって、彼の言動は最も「共感」出来るものでもあったのではないでしょうか。
人の心は時に残酷なまでに美しくあり、そしてどこまでも愚かしくあるもの。
様々な人間模様を描いた「シンフォニック=レイン」という作品において、彼の「愚かしさ」は時に他の登場人物の心と対比されることで、物語に深みを加えていきます。
そういう意味では、アーシノは『脇役』としての役割を完全にこなしていたといえます。
楽曲の主旋律にはなりえなくとも、楽曲を完成させるには必要な音。
彼もまたシンフォニック=レインという作品に不可欠なピースの一つ。愛されるべき存在であると言えるでしょう。
『encore』で描かれた15年後の未来。そこで彼はエスクとの間に一人の息子をもうけています。アンテリオ・アルティエーレ。『encore』という物語の主人公であり、クリスの娘であるクレッシェンテと運命的な出会いをします。
アーシノは作詞家として成功し、ファルシータのことを今でも尊敬しています。歌姫とフォルテニストとして大成したファルとリセのコンサートにアンテリオを連れていき、度々花を送っているようです。息子に対しても愛情を注ぎ「自分の好きなことを仕事にできたら、それは素晴らしいことだよ」と教えています。
彼は妻エスクを愛し、そして流行り病で早世したエスクからも愛されていたと息子からは見られています。また彼の書いたある楽曲の流行とその後の行動によって、アルティエーレ家をピオーヴァでも有数の貴族の一つになるまで立て直し。ゆくゆくは市長になりたいと願うファルから「私の夢を助けてもらおうかしら」と言われるほどの人物になりました。
ファルの力になれないと引け目を感じていた彼が、これから本当の意味でファルの力になれる未来もあるのではと、そんな希望すら感じさせてくれました。
ピオーヴァ音楽学院に勤めるフォルテール科の講師。
余り感情を表に出さす、淡白で冷徹にも見える性格から、生徒からの人気は余り高くない。
しかし、他者のフォルテールの才能を見抜き、それを教える立場としての彼女の才は、他の講師やグラーヴェでさえも認めている。
本編ではクリスやアーシノなどの生徒を受け持ち、
卒業発表まで週に一度のレッスンを行っています。
ただ受け持ちの講師としてだけではなく、彼女は殆どのシナリオでクリスやパートナーの音を聴くことで、彼らの思いや悩みの一部を感じ取り、
それに対してアドバイスのようなものを残しています。
「クリスを導く」という立場で考えるのならば、彼女はクリスにとってフォーニに次ぐ重要性を持った登場人物ともいえます。
al fineシナリオでは、真相を話さぬトルタに対してもその思いの一部を感じとり、自らの過去の話を語ることで、彼女の選択を促す要因の一つとなりました。
彼女の本編での立場は”子供達を見守る大人”と言えるものではないかと考えます。
劇中ではクリスやトルタを初め、様々な問題を抱えている主要人物たち。
しかし、彼らはまだ「大人」になりきれていない「子供」としての未熟さも抱えています。その未熟さは、少ないといえどあのファルシータですら持っているものです。
そんな”子供”を見守る”大人”の立場として、彼らに干渉しすぎることなく、その場その場で的確なアドバイスを残しているコーデル。
本編ではその存在に、包み込むような慈愛を感じることができました。
余談ですが、コーデル先生の年齢は「三人目のマリア」で語られる過去話を元に、30歳前後であると推測できます。
(エスクと初めて会ったのが15年前、ピオーヴァ入学当初であることから)
●クリスから見たコーデル
クリスにとってのコーデルは上で紹介したように、迷う彼を導く役目を持った人間と言えます。
クリス自身も彼女の言葉を聴きいれ、それによってその後の選択を為すことができました。
クリスがコーデルの深い部分まで知ろうとしていた描写はありません。
同じようにコーデルもまた、クリスを取り巻く問題の深い部分までは知る術を持っていませんでした。
コーデルはシンフォニック=レインという物語の根幹部分に関わることはできません。
しかし、コーデルはある意味でクリスの音の結論ともいえる答えをその言葉の中に示しています。
・フォルテールは人の感情の強さによってその音色に深みを持つということ。
・クリスのフォルテールの音色の魅力は「悲しみ」にあるということ。
・プラスの感情「喜び」や「幸せ」といった感情からも、素晴らしい音色を出せるということ。
二つ目までは、ファルをはじめ他の登場人物も薄々気づいていましたが、三つ目は確たる証拠もなく、彼女の持論とも言える内容でした。
しかし、その持論が正しかったのかどうかの答えは、
フォーニシナリオで明かされたといっていいでしょう。
「幸せ」からでも美しい音色は生まれる。
他の登場人物の誰も気付かなかった答えを彼女は持っていました。
●コーデルの未来
本編では全く語られていない彼女の未来を推測するには、短編集が不可欠です。
「三人目のマリア」「ToCoda」において、彼女視点からの描写がなされています。
結論から言ってしまえば、コーデルは今後もピオーヴァのフォルテール講師としての人生を歩むものと思われます。
彼女はリセルシアという生徒を受け持ち、彼女を立派に卒業させるという目的を持つことになります。
「君は何故フォルテールを弾いているのか」
かつての師グラーヴェから投げられた、彼女の本質についての質問。
その答えを見つけ出したコーデルは、既に迷うこともなく自らの生き方に自信を持っているはずです。
しいて変わる可能性があるとするならば、彼女の女性としての未来でしょうか?
『恋は尊敬という感情からも生まれる』
彼女が心より尊敬し、恐らくは他の全ての登場人物の中で最もその心を理解しているであろう「グラーヴェ」という人物と共に歩む未来があるならば、の話ですが。たとえそうでなくても、彼女はグラーヴェの良き理解者として、彼の支えになることを厭わないと思います。