キャラクター考察<Ⅴ>

※注意:この2名のキャラクターはシンフォニックレイン本編に登場する人物ではなく、本編後の未来を描いた短編集『encore』『20年後のあなたへ』にのみに登場する人物になります。重大なネタバレを含むため、本編の全エンディングクリアに加え、短編集未読の方もご注意下さい


◆目次◆
♭アンテリオ・アルティエーレ
♭クレッシェンテ・ヴェルティン


♭アンテリオ・アルティエーレ

アンテリオ・アルティエーレは、シンフォニック=レイン本編から15年後の未来を描いた短編『encore』と、その更に先の未来を描く『20年後のあなたへ』に登場するキャラクターです。
この2つの短編は、アンテリオの視点によって物語が描かれています。

ピオーヴァ音楽院に近年創設された中等部、そのフォルテール科の一年生。父親はクリスの友人であったアーシノであり、母親はアーシノの選んだ三人目のマリアたる「エスク」

父親よって音楽を教え込まれており、成績はフォルテール科一年でも上位。父に似てやや皮肉屋で冷めた性格の彼は、友人から聞かされた「面白い女」の噂と講師の名「チェザリーニ」に惹かれ、特別授業を受けることになります。

父アーシノの旧友であるファルシータ、教え子でもあったリセルシアと出会ったアンテリオは、もう一人の女性「面白い女」ことクレッシェンテに出会います。歌詞も間違えテンポもバラバラ、声量も周りお構いなしに歌うクレッシェンテ。しかしその何よりも楽しそうに歌を歌う姿に、彼は次第に惹かれていきます。

●アンテリオの内面
彼の性格は父親に似て多少の皮肉屋。歌や演奏の良し悪しを冷静に下すクールな性格です。ですが父親と違い前向きな性格で、かつ皮肉すらユーモアに変える知性も兼ね備えており、友人として付き合う者も多いようです。

音楽を教えてもらった父のことは尊敬しており、父と同じフォルテールの才を持った彼は、父は途中で見切りをつけてしまったフォルテールを仕事とする道を志しています。アーシノと違いフォルテールを弾くことは「好きなこと」だと自覚してます。

母親はいつも旅をしており滅多に会うことは無かったと言いますが、たまに帰ってきた時の両親の様子、そして流行病に倒れた母が最期に父の元に帰ってきた様子を見て、二人は確かに愛し合っていたのだと認識しています。

母エスクの死をきっかけに「チェザリーニ」の2人と父アーシノとの関係を独自に調べており。リセルシアがエスクの産んだ娘であり、父親違いの姉であろうことまでを調べ上げます。ファルシータから直接得られた正解を元に、彼が考えたのは「実の母親がもう死んでいることを伝えたら、彼女は悲しまないだろうか」という心配でした。

クレッシェンテという天真爛漫な先輩に振り回されつつ、何だかんだで彼女を大切に思う言動からも、皮肉屋の中の彼の優しさを感じることができました。

●アンテリオの青空
『encore』と『20年後のあなたへ』の物語は、本編とは異なり彼らの運命や人生に関わるような嘘や雨は存在しません。この物語は天真爛漫なクレッシェンテと、それに振り回されながらも楽しさを覚えるアンテリオの関係を描いたものであり、そんな二人が親交を深めていく様子が描かれています。

卒業後、ピオーヴァ音楽院フォルテール科の教授助手の道を選んだクレッシェンテの後を追うように、彼もフォルテール科の講師として働くことを決めます。
直接的な告白こそしていないものの、先輩後輩或いは親友のような間柄を超え、二人の間には、いつの間にか強い絆が生まれていました。

「ここから未来の物語は各々で想像してみてください」といった内容の筆者の西川さんの言葉通り。この先の二人の関係性に思いを巡らせてみるのも楽しいと思います。個人的には、二人は劇的な大恋愛などは経ず、楽しい日常の中でいつの間にか夫婦になっているような、そんな未来を想像してみました。


♭クレッシェンテ・ヴェルティン

クレッシェンテ・ヴェルティン。
ピオーヴァ音楽院中等部、声楽科のニ年生であり、アンテリオにとって科は違うものの1つ上の先輩です。栗色の長い髪を無造作に束ね、溢れるばかりの笑顔と美しさを持った少女として描かれています。

性格は天真爛漫で、悪く言えば傍若無人。歌を歌うことは大好きですが、その実力は学院でも下から数えた方が早いとアンテリオには評されています。特別授業において偶然出会ったアンテリオの曲に興味を持ち。それが縁で彼との交流を持つようになります。

新入生歓迎を兼ねたコンサートの練習を重ねていた2人、直前にアンテリオが手に怪我をしていることに気付くと、クレッシェンテは「先輩に、任せておきなさい」と、アンテリオの代わりにリセとフォルテールを奏でます。

クレッシェンテのフォルテールの腕前は、アンテリオですら強烈に惹きつけられる素晴らしいものでした。彼女のフォルテールの音は「幸せの音色」。かつてのクリスとは異なる…或いは本質的には同じだったかもしれない音色。

『20年後のあなたへ』で描かれる未来において、彼女は「妖精」という存在に興味を持ち、妖精を探そうとアンテリオを誘います。彼女は妖精を信じており、色々な噂や妖精にまつわる話を聞いていきます。そしてアンテリオ卒業後、同僚となる彼が住む家の引っ越しを手伝っていた時に、彼女はとあるメッセージを見つけることになります。

それは、かつてそこにいた妖精が残したメッセージ。
クレッシェンテが以前一度だけお父さんから聞いたお話。彼女が探していた、その答えとなるものを、彼女は見つけたのです。

●クレッシェンテの内面
彼女は歌や音楽を何より楽しみます。また父から教わったフォルテールも好きであり、確かな才能と実力を持っています。ピオーヴァの誇る高名音楽家たるファルやリセの前でも全く物怖じせず。いつでも自由奔放で明るい笑顔を見せる少女。

後輩のアンテリオとは特に歯に衣着せぬ物言いができる気軽な間柄であり、先輩の立場なのもあって少し偉そうに、時にはからかうような態度も取ります。もちろんそこに一切の悪気はなく。共に曲を奏で、いつも何だかんだで自分のわがままにも付き合ってくれているアンテリオのことを大切に思っています。

明確な表現はないものの、クレッシェンテはアンテリオにかなりの好意を持っているのは明らかだと感じました。彼女が高等部でフォルテール科に転科したこと。卒業演奏のパートナーを探してあげると言っておきながら、結局自分がパートナーになったこと。アンテリオの卒業後の進路を、恐らくは自分と同じ講師に誘おうとした様子。

恋についてはまだ自覚がないのか、素直になれない彼女。それでもクレッシェンテはアンテリオと一緒にいることを、何より望んでいたのでしょう。

●クレッシェンテの青空
クレッシェンテという存在自体が、雨の物語を終えたクリスそしてアルの青空。未来そのものであることは、もはや語るまでもありません。

両親から溢れる愛を注がれ、天真爛漫にそして自由に生きることを教わったクレッシェンテ。母からは歌を歌うことの楽しさと、ちょっぴり下手な歌を。父からはフォルテールの才能と技術を。

「上手くならなくてもいいから、音楽をいつまでも好きでいられるように」

そして何より。音楽を心から楽しみ、好きになれる才能を。

そんな彼女の未来にも、これから先、無限大の青空が広がっていることでしょう。そして恐らくはこの先もずっと傍にいてくれる、少し皮肉屋で、優しい青年と共に。