『peccato』 #3


外の雨は今も小さく降り続いていた。
けれどこの夜が明ければ、きっとその雨もあがっているだろう。

降り続いた雨の後には、誰だって青空を望む。
そして得られた青空の光の下では、
昨日までの雨がまるで「嘘」のように感じられるかもしれない。

でも「雨」は確かに降っていたのだと、足元を見て気づくだろう。
きっと、いくつもの水溜りが、そこにできているのだから。

アリエッタが何を思い、何の罪に苛まれていたのか。
今の僕にその全てを正確に知ることはできない。
たとえ知ったとしても、恐らく僕はそれを『罪』とは呼ばないだろう。

けれど少なくとも、今のアリエッタにとって、それは『罪』であり。
心の中に降り続いていた『雨』そのものだったのだ。

僕の罪。
アリエッタの罪。
或いはトルティニタにも罪があるとするならば。

それを一体、誰が許せるのだろうか?

人は誰でも 生まれながらに罪を背負っているという。
そしてその『全てを許す』ことができるのは、神さまだけなのだと。

僕は神じゃない。
もちろんアリエッタもトルティニタも。
時には道に迷い、時には過ちを犯すこともある、小さな人間だ。

それでもアルは、僕を「許す」と言った。
そして僕はその言葉に確かに救われたんだ。

僕は、アリエッタの……トルティニタの救いになることはできるんだろうか?
全ての人の罪は許せなくても、その、たった二人の大切な人の罪を、許してあげることはできるのだろうか?

結局。
僕にできることは、ほんの少しのことだけだ。

明日の朝、目覚めたアルの前では笑顔でいよう。
彼女の傍で、たくさん話して、たくさん笑おう。
たくさんのことをして、今よりもっと、アルのことを知っていきたい。

トルタの前でも、同じように笑顔でいよう。
久しぶりに、トルタとアンサンブルをするのもいいかもしれない。
いつか三人で笑い合った、あの懐かしい風景を少しでも早く取り戻せるように。

僕は、僕のできる限りのことをしていこう。
『謝罪』を……できるなら『感謝』の思いに変えて。

今はまだ、思い出せば泣いてしまうほどの悲しみの記憶であったとしても。
いつか全てを受け止めて、それでも笑っていられるように。

その時が来るまでは、

彼女が涙を流すなら、
彼女が恐怖で震えるのなら。

いつまでだって、何度だって、
僕はその体を抱きしめる。
その涙が止まるまで、その震えが止まるまで。

 

明日に進むために。
青空の下で、明日という日を笑顔で迎えるために。

必要な雨もあるというのなら。

だから、神様。どうかこんな雨の日だけは、
僕たちを許してほしい。

この冷たい雨の降る夜を。
この、どうしても止められない涙を。

どうか、許して欲しいと願う。


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