耳に鳴り響く雨音。
視界を覆い尽くすような雨が、私たちの間に降り続いていた
そして。
「ぁ…」
バシャンと大きい水音。それは一瞬のことだった。
急に走り出したせいか、私は雨に塗れた地面に滑って転んでしまった。
「アルっ!」
クリスはすぐに気づいて、私の体を起こしてくれる。
「だ、大丈夫!?」
私の服はびしょびしょに濡れてしまっていた。顔や手も雨水と泥がついている。
「えっと…!どこか痛い所ははない?」
クリスが私の体についた泥を手で払う
「…さい」
「え?」
「ごめんなさい。私…ドジだよね」
私は、そんな自分が惨めで情けなくて。もしかしたら、泣いてしまっていたのかもしれない。
「アル…」
顔を拭って、散らばってしまった買い物を拾い集める。
「私…何やってるんだろう。トルタやクリスに迷惑ばかりかけて…」
「そんな…!」
全てを拾い集め、私は笑顔を作った。優しいクリスにこれ以上余計な心配なんて、させたくなかったから。
「ごめんね…クリス。せっかく買ってきたのに…全部濡れちゃっ」
「アルっっ!!!」
――気付くと私は、クリスに抱きしめられていた。
「…クリ…ス?」
クリスの両腕が私を包み込む。その暖かさに、私は胸の鼓動が速まっていくのが分かった。
「クリス…どうして?」
「…解っていたんだ、でも、そんなことは関係ないんだ…」
クリスは何かを考え込むように私の顔を見つめる。
そして。
「僕は、君のことが…アルのことが好き…なんだ」
「………」
「…ずっと…言えなかったけど、やっと言えた」
クリスからの、告白。
信じられない。どうして、私なんかを…
「どうして?…クリス、わ、私はトルタと違って歌も下手だし…」
「そんなことないよ…アルはすごいよ。だって、あんなに美味しいパンを作れるんだから」
「そ…そんなこと、そんなにすごいことじゃ…」
「ううん、だって、それは誰にでも出来ることじゃない。それは、歌を上手く歌えることと同じぐらい素晴らしいことだと、僕は思うから」
彼は、そう言ってくれた。
胸の奥が熱くなる。私がずっと欲しかった言葉。
クリスが、好きって言ってくれることを。
クリスに愛されることを、どれだけ…夢見ただろうか。
「クリス…」
「それとも…やっぱり僕じゃダメかな…?」
「………」
私はクリスの懐に顔を埋めた。
そして。
「…そんなことない…嬉しい。私、本当に嬉しい…」
私は精一杯の気持ちを、彼に伝えた。