――その時の私は、浮かれていたんだろう、と思う。
クリスに告白されて。
クリスに好きだって言ってもらえて。
私は、本当に嬉しかった。
クリスとの二人の時間を重ねる中で、クリスが私のことを本当に大切に思ってくれているってことは、伝わってきた。まだ手を繋ぐことさえ恥ずかしくてできなかったけど。クリスは確かに私を好きでいてくれていた。
私たちが恋人同士になったことで、トルタとは少しだけ距離が離れてしまっていた。
それに後ろめたい思いもあったけれど、それでも…私は幸せだった。
クリスは私を選んでくれた。
トルタではなく、私を。
けれど、その理由を私はずっと考えていた。
どうして、クリスは私を選んでくれたんだろう?
どうして、トルタではなく、私を選んだんだろう?
そんな疑問が、ずっと私の胸の中に小さなトゲのように、残り続けていた。
私は、窓の外の空を見上げた。
空には今日も雲はほとんどなく、星が煌めいていた。
だけど…クリスは今、雨の中にいる。
雨の降り続ける街、ピオーヴァに。
ピオーヴァにいるクリスは、毎週欠かさず私に手紙を書いてくれている。
手紙には音楽院で体験した色々な出来事が書かれていて、遠い故郷にいる私に向けて、私のことを想う言葉も書いてくれていた。
私はその手紙を読んで、クリスがまだ自分を好きでいてくれることに、嬉しさと少しの寂しさを感じていた。
こんなに近くにいると感じられるのに。私たちの距離はあまりに遠い。
本当は今すぐクリスに抱きしめて欲しかったけど、それはできなかった。
ピオーヴァで3年の時が流れたあと、私たちはどうなっているんだろう?
クリスは、トルタは
そして私は―――。
今の私にできることは、クリスと…トルタの幸せを願うことだけ。私には何もできないけれど、きっとトルタなら、クリスを正しい方法に導いてくれるはず。そんな無責任な思いを抱きながら。
『愛してる』
私は心の中で、そう呟いた。
あの時は分からなかった疑問も、今はもう答えを得ている。
―――クリス。クリスは本当に、私のことを
それでも、信じたかった。
信じ続けて、いたかった。
涙が一筋、私の頬を流れた。