笑ってしまう。
なにが『辛さや痛みを忘れられた』だろうか。
今まで一度も、他のことを苦しいと思ったことなんてないくせに。
三年間の私の全ては『クリス』という、たった一人の最愛の人を手に入れるために、自分自身で積み重ねてきた「苦しみ」であり「罪」に他ならない。
だったらそれを忘れるなんてこと…
そんなこと、できるはずなかったんだ。
(私と姉さんは違う)
改めてそう思った。
『クリスは私だけのものだ』
『クリスは私が守るんだ』
姉さんが私たちの前からいなくなってから、
私は今まで、そんな思いで嘘をつき続けてきた。
それには姉さんや…クリスの気持ちだって関係なかったはずだ。
こんなにも酷くて醜い。私の本心。
こんな私ではなく、アルをクリスが選んだのは
…当然じゃないか。
『…違うよ』
それでも…それなのに姉さんは、
そんな私を否定した。
「何が違うのよ!」
二度目の叫び。
それは、姉さんではなく、私自身の中に向けられた苛立ちと怒りでもあった。
「違う…トルタは、ずっとクリスを大切に思ってくれていたよ。……私のことだって、私の思いも、いつも考えてくれていた」
姉さんは涙を拭いながら、そう言って微笑んだ。
「何よ…何も知らないくせに…」
「三年間のクリスのことも…何も…!姉さんは、私がクリスにどんな手紙を書いていたかも知らないじゃない!」
違うはずが無い。
結局は、認めてしまえば簡単なこと。
私は姉さんに嫉妬していたんだ。
クリスが自分のものにならなかったことが悔しくて、
何も知らない姉さんにあたっていただけ。
そして、私は思いの全てを姉さんに吐き出した。
だからこそ、赦せなかった。
『自分で自分を赦してしまう』ということだけは。
「………知ってたよ」
「…え?」
自己嫌悪で泣きそうになっていた私は、姉さんのその言葉に耳を疑った。
「私…ずっと読んでたよ…トルタの手紙を。手紙が来るたびに…嬉しくって…でも…悲しかった」
「トルタの気持ちを理解しようとして…でも、全部を知ることなんてできなくて」
「何もできなかった自分が…悲しかった」
何かを思い出すように少し目を伏せる姉さん、
その言葉は、確かな悲しみの感情が込められていた。
姉さんが、私の手紙の内容を知っているとしたら、
クリスが姉さんに教えたとしか考えられない。
「…クリスから、見せてもらったの?」
姉さんは首を横に振った。
「ずっと、クリスに気付かれないように…読んでいたの」
「……どういうこと?」
どうしてだろうか?
その口振りからは、目覚めてからの姉さんがクリスの持っていた手紙を読んだ、という風には感じられなかった。
(私の手紙が来るたびに?)
(それじゃあ、まるで…)
「……昔、私が読んでいた、妖精のお話の本。覚えてる?」
すると、姉さんは突然そんなことを言い出した。
「妖精の…本?」
何かを決心するように顔を上げると、
姉さんは私のすぐ隣まで歩みより、目の前の小川の前に腰を下ろした。
水面には、二つの影が揺れていた。
「…このことは、お母さんやお父さんにも話してないの。言っても、たぶん信じてくれないと思うから」
「でも…トルタなら、きっと信じてくれると思う」
「………」
そして姉さんは、ゆっくりと話し始めた