――あれから、どれくらい経っただろう。
あの時望んでいた未来は、現実となり。
そして、いつの間にか過去になってしまっていた。
でも、それを後悔することは無い。
三人で行ったピクニック。
姉さんの作ってくれたお弁当を食べた後、私と姉さんは歌を歌った。
青空の下で歌を歌った姉さんは、それでもやっぱり下手だったけれど、
クリスのフォルテールの演奏に乗せて、本当に嬉しそうに歌っていた。
アルとクリス、二人との少しのお別れ。
歌手になるという夢をかなえるために、私が選んだ一つの岐路。
二人と離れるのは…少しだけ寂しかったけれど。
「また会える」という喜びが、私に笑顔をくれた。
それぞれの描いた夢の為の年月。
小さな家を手に入れるために、アルもクリスも必死で働いた。
私も、そんな二人に負けないように、たくさん歌の練習をした。
プロになった私の歌を、たくさんの人が聞いてくれた。
アルとクリスの結婚式。
故郷の町の小さな教会で行われた、二人の結婚式。
純白のウェディングドレスを着た姉さんは、本当に綺麗で。
何よりも…幸せそうに微笑んでいた。
そして…二人の間に生まれた、もう一つの命。
本当にその時期だけは、歌も手につかないほど心配した。
…でも、初めて二人の子供の顔を見たときは。
私はまるで自分のことのように嬉しくて…泣いて喜んだ程だった。
――それも全部、今は大切な思い出だ
雨上がりの空を見上げて
今までにあった、色々なことを胸に思い浮かべる。
そして、改めてひとつのことを確信した。
『私は…クリスのことが大好きだ』
『そして、姉さんのことも』
『お母さんやお父さんのことだって、本当に愛してる』
『そう、そして…』
今。私は、ピオーヴァの誇るコンサートホールの前にいる。
吹き抜けた風は、覆いかかっていた雲さえも消し去ってしまったようだ。
空に掛かる虹に、もう一度『今日は最高の演奏にしよう』と誓う。
「それじゃ…行こっか!」
そして、ゆっくりと歩き出した
あの空の向こうにある
未来に向かって。